01 ここを理解すると防災が変わる。災害対応の絶対的なルール

2022年 07月01日

全ての人に共通する絶対的なルール

 災害が発生した際のはたらきとして、自助・共助・公助という言葉があります。一人一人が災害に備えるための手段を講じるのが自助、ご近所さんと隣保共同の精神に基づいて助け合うのが共助、そして、国を筆頭として様々な公共団体などが役割分担と連携をもって力を発揮するのが公助というわけです。この自助・共助・公助は言葉の明記はなくても、我が国の災害対策基本法の基本理念としても明記されている重要なコンセプトです。しかし、公助といっても、何も全て御上が差配し、公務員だけが慌ただしくなるのではありません。自治体なども適宜民間企業と災害時の協定を締結している今般の状況を考えれば、公助とは社会全体で挑む総力戦の防災と言えます。

 さて、このように法律にも謳われる、自助・共助・公助において、いざ災害に立ち向かう一人ひとりが心得るべき共通したルールがあります。いわんや自衛官や消防士から、医師、看護師、本コラムを読んでいらっしゃる皆さまから子どもまで、全員に共通することから、筆者が「絶対的なルール」と呼ぶ考えをご紹介します。絶対的なルール、それはすなわち「自分自身の安全が最優先」であるということです。

 自分自身の安全が最優先とは、聞き方によってはずいぶんと自己中心的な考えのように受け止められるかもしれません。ところがどっこい、自分自身の安全こそが、総力戦で挑む防災において社会の基盤を守る原動力となるのです。その理由を3つの観点でご案内していきましょう。3つの観点とは、①安全の基本、②役割は他にもある、③医療を守る、というものです。、

 

安全の基本

 人通りのめっきり減った夜道で、1人の子どもが泣きじゃくっているところに遭遇したところを想像してみてください。何物にも代えがたい火急の用事で急いでいる途上であるならばまだしも、泣きじゃくる1人の子どもを置き去りにするのは、何とも形の悪い話でございましょう。おそらく読者の皆さんのいずれもが「どうしたんだい」と声をかけてやるんではないでしょうか。

 さぁ、ここで大切なのが自分自身の安全が最優先という発想です。もしこの子どもが道路の反対側にいたとしたら、あなたは道路を渡らなければいけません、うっかり飛び出して無灯火の自転車にでも跳ね飛ばされたら元も子もありません。ぜひとも、道路の左右を見渡し、安全を確認してから子どもの元へと向かって頂きたいところです。もし車の一台でも通るようであれば、その車をやりすごしてから道を渡ります。そう、いまあなたは自分自身の安全を最優先にして、安全を確認、確保したわけです。

 この子ども、近づいてみたところ、あたりにはガラスの破片が散乱して立ち往生しているようなのです。あなたはこのガラス片を踏み抜かないように足元を確認しながら近づきます。賢くもケガをしないようにと下手に動き回らなかった子供の目の前で、うっかりガラス片を踏み抜いた挙句に、子どものほうから「おじさん大丈夫?」なんて心配された日には、どっちが助けられているのか分かったものではありません。ケガをしなければ子どもを抱きかかえて安全な場所まで移せたかもしれないのに、自分が歩けなくなったばかりに、今度は二人して立ち往生の羽目になるやもしれません。
ゆえに、自分自身の安全が常に最優先されなくてはなりません。様々な危険が潜む災害時ならなおのこと。絶対的なルールは、つまりは安全の基本に他なりません。

 

役割は他にもある

 冒頭でご案内した災害対策基本法の第2条第2項では、防災という言葉が定義されています。簡略にすると、防災とは、災害を事前に予防し、発災時には被害の拡大を阻止するべく対処し、平時の暮らしをとりもどすべく復旧することだと、法は定義しています。防災は備えが大切、とはよく言われるお題目ですが、災害が発生したときのことは色々と考えることはあっても、復旧してこその防災、というイメージはすぐに浮かぶでしょうか。家にたどり着くまでが遠足、復旧し平時の生活を取り戻すまでが防災なのです。
ここで、皆さんの周りの人たちを思い浮かべてみてください。世話をしなければならない子どもや高齢の家族はいませんか。まだまだ半人前、しっかりとサポートしてあげないとならんかわいい後輩はどうでしょうか。リードをくわえて玄関で散歩に連れ出してもらえるのをじっと待っている犬だって立派な家族の一員でしょう。こうした人々(と犬)が、今の日常であなたを必要としているということは、復旧を果たし平時の暮らしを取り戻す、防災の向こう側でも、彼らはあなたを必要としています。

 変なテンションのせいなのか、妙な義侠心にかられて、目の前の状況をなんとかしようと無茶をした挙句、あなたが命を落とすようなことがあれば、あなたの周りの人たちは、あなたを欠いた生活を余儀なくされます。あなたの周りの人たちには完全な復旧はおとずれなくなってしまいます。それでは防災が完結しません。だからこそ、自分自身の安全が最優先なのです。
安全が最優先だからといって、目の前の困窮を見過ごせと言っているわけではありません、安全を確保するためにはどうすべきかを考えるべきなのです。何人か仲間を集めたら安全性が高まるかもしれません。自衛隊や消防といったプロに委ねるべきであったとしても、彼らを早く誘導したほうが良い結果につながるでしょう。彼らが到着するまでの間、助けを求める人を励まし続けることだって大切な役割です。無茶をするのはあなたの役割ではありません。あなたの周りの人、それに、目の前の状況にしっかりと考えを巡らせてください、自分自身の安全を最優先にしたときに、必ず最適な役割が他にあるはずです。

 

医療を守る

 おおよそ日本国内のあらゆる土地で、救急車のサイレンを聞かない日がある場所というのは相当に稀有な存在であると言えるのではないでしょうか。この救急車に関する数字を並べてみましょう。令和2年版消防白書によれば、日本国内の救急車は6,443台。それに対して、令和元年1年間の搬送人員数は約600万人に上ります。救急車が1度に搬送できる要救助者は1名ですから、単純計算で全ての救急車が毎日2、3人の搬送をし続けていることになります。コロナ禍の影響で外出が減少した時期に、お茶を挽くタクシーはあっても、救急車と、それに乗る救急隊員には連日が繁忙期、息つく暇もないことでしょう。大きな災害が発生すると、多くの人が負傷をします。当然救急車も目の回る忙しさとなります。

 さて、あなたと、あなたの友人が、災害で負傷した人を発見したとします。その要救助者は、いまにも崩れそうな瓦礫の隙間から助けを求めています。あなたと、あなたの友人はどのような選択をするでしょうか。ここで大切なのが、自分自身の安全が最優先という絶対的なルールの遵守です。安全そっちのけで、2人がかりで助け出そうとしたとしたら、どうでしょうか。万が一、救助の途中で瓦礫が崩落したら、その瞬間に要救助者の数は、あなたがたを加えて1名から3名に増えてしまいます。当然、搬送に必要な救急車も1台から3台に増えます。他の命をつなぐために走れたかもしれない貴重な救急車を、あなたの無茶が横取りするような結果になったと言えます。
発災の瞬間に負傷をする人は必ずいます。それは、運不運の差としか言いようのない、仕方のない結果かもしれません。もし運よくかすり傷ひとつ負わずに発災の瞬間を切り抜けることができたら、その人の責務は、これ以上怪我人を増やさないこと。いわんや、自分自身の安全を最優先として、あなたがケガをしないことなのです。災害時、平時の区別なく、人の命を守る最後の砦が医療機関です。しかし、医療機関に負傷者があふれかえれば、機能不全を引き起こし、医療崩壊へとつながりかねません。命の最後の砦を守るのは、私たち一人ひとりの行動です。

 

安全を意識した日常こそが防災訓練の序章

 自分自身の安全が最優先というルールについて、3つの観点で考えてみました。皆さんは、これまでに何度も防災訓練、あるいは、避難訓練に参加されてきた経験をお持ちのことでしょう。その都度、自分自身の安全について考えながら訓練に参加してきたでしょうか。

 防災訓練に関する金言に「平時にできないことは、有事にもできない。現場では訓練時以上にうまくできることは絶対にない」というものがあります。訓練に勝る防災はありません。ひるがえって、様々な防災訓練を参観していると、もう一つの傾向が見えてきます。「平時の苦手は、訓練でもしくじる」というものです。普段からコピー機やらキャビネットにうっかり膝をぶつけている人は、訓練でもどこかで膝を打っています。物事のチェックがいい加減な人は、訓練中の安全確認がきちんとできません。
一方で、観点①でご案内した通り、それでも皆さんは、通りを渡るときには車の往来に注意を払いますし、カフェで受け取ったばかりのコーヒーを飲むときは熱さに注意しながらおっかなびっくり口をつけます。そうした安全に関するくさぐさの延長に「自分自身の安全が最優先」というルールがあるのかもしれません。
 「自分自身の安全が最優先」というルールを胸に、試しに半年、あるいは、1年間、絆創膏の世話にならない生活にトライしてみてはどうでしょうか。そうしたちょっとした日常の工夫に、現場で活きる防災の入り口があります。

 

 


国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員     
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員 
佐伯 潤   

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