13 防災資機材の話「ヘルメット」

2023年 01月01日

防災グッズの王道?ヘルメット

 皆さんは防災グッズとしてヘルメットを用意されているでしょうか。お仕事や、個人的な関心で防災に触れられている方であれば、あるいは、業務として日常的に被っておられる方であれば、ヘルメットは非常に身近な防災グッズですね。ただ、まれにオンラインショップで防災グッズ30点セットといったリュックサックに様々なアイテムがつまったものを購入して安心してしまった方に、「ヘルメット?ないですよ、防災グッズ30点セットに入ってないし」という方がいらしたりします。というわけで、今回は、あらためてヘルメットを深掘りしてみましょう。

 ヘルメットが保護するのは頭部です。頭部は全体重の8%を占めます。なかなかの重さです。この頭部には脳が収まっており、これがあかんことになると、生命を左右するような事態となるのは誰もがご案内のとおりです。台風のような災害時に、強風によって手のひらくらいの大きさの何かの破片が飛んできたとします。とっさに腕を上げて身を守るようなポーズが取れたとして、腕にその破片が当たったとしたら、たぶんすごく痛いです。骨折しているかもしれません。それはそれで不運な話ですが、この破片が頭部に当たったとしたらどうでしょうか。頭部外傷、頭がい骨骨折、脳挫傷、硬膜下血腫、硬膜外血腫など、想定される状況の名前を挙げてみるだけでも、なかなかにぞっとするレパートリーになりますね。
 災害が発生した際には、どのような危険が潜んでいるか分かりません。周りの人々も災害発生という状況に動転していつもより注意が散漫になっている可能性だってあります。様々な可能性から大切な頭部を守る為に、災害発生後に活動するのであれば、ヘルメットは被っておくべきです。

 

どんなヘルメットを用意すべきなのか

 さて、一言でヘルメットと言っても、工業用、自転車用、オートバイ用、クライミング用など様々な種類があります。最近は防災用として、折り畳みが可能で収納時に場所を取らないタイプのヘルメットも多く見かけるようになりました。防災に最適なヘルメットは工業用ヘルメットもしくは防災用ヘルメットです。防災用ヘルメットは前述のとおり、折りたためるタイプですと場所を取らないのが利点ですが、一方で工業用ヘルメットは、日本の工事現場を支えるマストアイテムですから、大量生産されていて値段が安く、ベンチレーション(空気穴)などの工夫もあり地味に使い勝手が良いのが特徴です。
 ヘルメットを選ぶ際には、二つの国家検定に注意してください。「飛来落下物用」と「墜落時保護用」の二つです。飛来落下物用とは、文字通り、物が落ちてきたり、飛んできたりして頭にぶつかったときにちゃんと保護してくれる性能に関する基準を満たしていることを表しています。もう一つ、墜落時保護用ですが、これは物が飛んでくる場合ではなく、ヘルメットを被っている本人が落っこちた時に頭部を保護する性能に関する基準を指します。
 墜落時という文字面だけを意識すれば、「俺は高いところ苦手だし、ましてや災害時にそんな危なっかしいところには近寄らねぇよ」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この墜落時保護用というスペックがとても重要なんです。皆さんの身長を0.8倍してみてください。筆者の場合は身長が175センチですから、0.8倍すると、140センチ、1.4メートルになります。この身長の0.8倍という高さは、おおよその肩の高さになります。筆者が歩いているとき、頭は地上から1.4メートルの高さを移動していることになります。
 たとえば、避難のために移動している時に筆者が何かにつまづいて転び、頭を打ったとします、この時、頭だけに着目すれば、筆者の頭は1.4メートルの高さから「墜落」したことになります。厚生労働省の労働災害統計でも、死傷事故でトップの割合を占めているのは転倒です。転ばぬ先の杖、ならぬ、転ばぬ先のヘルメットが頭部の保護のためには非常に重要なのです。

 したがって、ヘルメットを選ぶ際には、「飛来落下物用」と「墜落時保護用」の二つの国家検定をクリアしたものをぜひ、選んで下さい。オンラインショッピングなどで検索していると「飛墜用」と書いてある場合がありますが、これは、飛来落下物用と墜落時保護用の二つを合わせて短縮したもので、これもまたOKです。一方で、防災用ヘルメットのなかには、たまに飛来落下物用しか満たしていないものもあるので、注意が必要です。
 ちなみに筆者は、工業用ヘルメット推しです。組立の手間がかからないので、すぐに被ることができるという点、それから、形態が固定化されているので、あらかじめヘッドライト、ゴグルといったオプションを取り付けておける、という点で工業用ヘルメットのほうが使い勝手が良いように感じています。

 

ちゃんと被れますか?

筆者が訓練指導をしていると、割と頻繁にヘルメットをきちんと被れていない方をお見掛けします。読者の皆さんはどうでしょうか。これも、ヘルメットを頻繁に被っておられる方にとっては当たり前の話なのですが、3つのポイントで確認をしていきましょう。
まず、ヘルメットは水平にかぶります。何がだめかといえば、つばを上に持ち上げて、おでこが大きく出ているような「あみだ被り」はNGです。水平にヘルメットを被ったら、次に後頭部にあるヘッドバンドを締めてヘルメットをしっかりと頭にフィットさせます。頭の小さな女性の場合、ヘッドバンドが合わずに、ぶかぶかなためにヘルメットをかぶっている間、常にヘルメットが前方にずれてきてしまうことがあります。工業用ヘルメットにはそうした方向けの「女性用」といったサイズ設定のあるものもあります。このヘッドバンドが緩い状態ですと、衝撃が加わった場合にヘルメットがずれてしまい、十分に保護性能が発揮できない可能性があります。ヘッドバンドを調整しましょう。自分専用のヘルメットであれば、あらかじめ調整しておくのでも構いません。

 最後にあご紐をしめます。せっかくヘルメットをかぶっていても、あご紐をしめていないと、たとえば転倒時の勢いでヘルメットがぬげてしまい、ヘルメットのない頭が墜落してしまいかねません。
 ①水平にかぶる、②ヘッドバンドを調整する、③あご紐をしめる、この3点を守って、正しくヘルメットを被ってください。折り畳み式の防災ヘルメットの中には、あご紐が別部材として同梱されていて、自分であご紐を取り付ける必要のあるものがあります。いざ災害が発生して、自分の身を守らなくてはならない時に、あご紐を取り付けるなんて細かい作業はやっていられません。ぜひお持ちの、あるいは、これから購入されるヘルメットを一度は被って、しっかりと被れるかどうか試してみてくださいね。

 

指さし確認の重要性

 ここで簡単な実験をしてみましょう。頭を真正面に向けたまま、真正面を指さしてください。その指が指している先を見つめたまま、少しずつ腕を上に上げていきます。指が少しずつ上に向いていきますので、その指が指している点を、頭を動かさずに、眼球を動かすだけで追いかけてみてください。腕の持ち上げ角度が45度を超えてももう少しは目線だけで追いかけられるのではないでしょうか。もうこれ以上は顔を上げないと見られない、というぎりぎりの腕の角度を覚えておいてください。これがあなたの上方の視野範囲を示しています。
 では次にヘルメットを被ってみましょう。普段ドローンを飛ばす時はヘルメットではなく、キャップを被っているという方はキャップで試してみても構いません。前と同様に、頭を真正面に向けたまま真正面を指さし、徐々に持ち上げながら視線で指さしの先を追いかけていってみましょう。これ以上は顔を上げないと見られないという時点で腕を止めてください。先程の腕の角度と比べてどうでしょうか。45度も腕は上がっていないのではないでしょうか。ヘルメットやキャップを被っている時には、上方の視野がかなり狭くなっていることを体験いただくための実験をしてみました。

 人間の心理というのは存外ずぼらなもので、すぐにあきらめます。もし上方の視野を狭めているものが、自分で被ったヘルメットのつばではなく、隣にいる人がかざした手のひらだったどうでしょうか。それが赤の他人であれば、別の意味で気持ち悪いですが、知り合いであってもそんな風に手でひさしを作られると、何かを見せまいとしているのではないか、とか、単純に鬱陶しい、といった理由で不快感を得て、その手をどけて欲しいと感じることがあります。
 ところが、自発的に被ったヘルメットやキャップのつばについては、つばがついているのだから当たり前、とばかりにその状況をすんなりと受け入れてしまいます。はたしてどれくらいの読者の方が、ヘルメットやキャップを被るたびに「あぁ、つばのせいで上方の視野がさえぎられているな」なんてことを意識してきたでしょうか。ヘルメットを被ることにより、上方が見えなくなっているという事に気付いていない人が意外と多いのです。
 その証拠に、筆者が訓練指導をしている際にも、頭上すれすれに配管が通っているような場所を通る際、ヘルメットを被り慣れていない方は、よくヘルメットを配管にぶつけています。ヘルメットを被ったことによって視野が狭くなっていることに気付かず、頭上の障害物がすっかり見えていないのです。
 とはいえ、ヘルメットに慣れているからといって、つばごしに物が見えるようになるわけでもありませんし、頭上の障害物の気配だけ察知して避けるといった武道家みたいになっているわけでもありません。ヘルメットに被り慣れている、というよりも、現場に慣れている方々は、指さし確認をきちんとやっているのです。
 ドローンを起動する前の、「前よし、後ろよし、右よし、左よし、上空よし」という安全確認でも、指さし確認をしますよね。見るべきところをしっかりと指さしをして、その指している方向に視線を向けることで、いつの間にか狭くなっていた視野による見落としをかなり回避することが可能になります。

 大切な頭部を守るヘルメットが防災グッズの王道であることは間違いありません。このコラムを読まれているのが、ご自宅や職場であれば、いま、お持ちのヘルメットを取り出して、被り方の3つのポイント、それから指さし確認による上方の視野の狭さを確認してみてください。自宅や職場にいるけど、すぐにはヘルメットが出てこない?それでは、この際ついでにヘルメットの置き場所についても考えてみてください。

 

 

国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員     
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員 
佐伯 潤   

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