16 無線機の取扱いだけが通信技術ではない

2023年 02月15日

情報通信資機材としての様式

 一般的に、情報通信に関する資機材と言えば、携帯電話や無線機など情報通信機器を真っ先に思い浮かべることでしょう。今回は電子機器等ではない、アナログな通信資機材、様式についてのお話です。様式と言われてもピンとこないかもしれませんが、様式とはすなわち、活動情報を生み出すために必要な要素の項目が羅列してあるテンプレートのことです。
 皆さんが普段接している様式としては、病院で記入を求められる問診票や、宅配便の伝票があります。問診票にあっては、医師が知りたい要素が、あらかじめ質問形式で羅列されています。もし病院で渡された問診票が、ただの便箋で「気になることを記入してください」としか書かれていなかったらどうでしょうか。うっかり生年月日を記入し忘れるかもしれませんし、あるいは、今日朝食を食べたか、便通があったか、といった情報が実は重要な情報であることに気が付くことができるでしょうか。どこが痛いのかを記述することはできても、あらかじめ痛みの種類として「□きりきり痛む、□ぎゅーっと痛む、□しくしく痛む、□痛みに波がある」といった選択肢が用意されていれば、より詳細に状況を伝えられるかもしれません。
 様式とは、情報を送り出す側と、受け取る側が、どんな情報をやりとりすれば目的とする意思疎通を達成できるかをあらかじめ決めておく共通言語のようなものなのです。仮にそのような共通言語がなかったとしても、時間に余裕がある場合だったら、対話を通して、ひとつひとつ不明な点を明らかにしていくことも可能でしょう。

 前述の問診票の事例でも、町場の医院で開業医の先生と面と向かってやりとりするのであれば(何も開業医の先生には時間の余裕があると言っているわけではありませんが!)、先生が丁寧な質問を繰り返して、患者はその問いにひとつひとつ回答していけば、どこの具合が悪いのかを突き止めるのも可能になるかもしれません。しかし、それが大きな大学病院で、白紙のような問診票に記入を求められ、提出してから1時間以上待たされたとします。ようやく自分の名前が呼ばれたと思ったら、看護師さんに「昨日までの食欲の具合と、今朝の便通の有無が記載されていなかったので、それを書いて再提出してください」と言われたらどうでしょう。患者さんと先生の間を行ったり来たりする看護師さんも難儀ですが、それよりも患者であるあなたが「そういうことを知りたいんだったら、はなからそうと言っておいておくれよ!」と、猛烈にイラつくかもしれません。
 これが災害時のドローン運用だったらもっと面倒かもしれません。ドローンを偵察のために飛ばして、川にかかった橋が損傷を受けていることを発見し、難しい飛行ながら、橋の下にも回り込むようにして様々な情報を集めたとします。しかし、実際には橋の上流と下流の流れの様子を動画でおさえておいてもらわないと、今後の対処のしようがない、だからもう一回同じ現場を飛んで撮影をしてきてくれ、と言われるかもしれません。貴重なバッテリーを費消するだけでなく、予定していた次の区画の偵察以降のスケジュールがずれこんでしまいますし、日没がせまって、本日予定していた作業が完了できなくなってしまうかもしれません。
 様式が整備され、集めるべき情報、知るべき情報が明示されている、というのは情報通信を円滑に実施するうえで欠かせない事項なのです。

 

「無いこと」を把握する知見

 様式の効能は他にもあります。災害時の情報収集をするにあたり、物が崩れた、火が出ている、人が倒れている、といった目に見える異常は収集が比較的容易です。一方で、あるべきものが無い、無くなっている、というのは気が付くのが困難な情報なのです。
 仮にドローンの本体脇についている小さなパイロットランプを丁寧に埋め潰しておいたとします。あわせて、ランディングギアに小さなヒビに見える模様を書き込んでおきます。丁寧に飛行前の安全点検をするパイロットであれば、たいていがそのヒビに気が付くことでしょう。では、小さなパイロットランプが無くなっているということにはどれだけのパイロットが気付くでしょうか。
 きれいさっぱりなくなってしまった物が、そこにあったということに気付くためには非常に丁寧な観察が必要となります。万全に準備したつもりが、いざ現場で作業を始めたら必要な工具が足りないことに気が付く、なんていう経験は誰しも覚えがあるはずです。
 災害の現場でも同様のことがあります。現場にいけば、現地の防災資機材倉庫に収められた資機材が使えると思っていたところ、倉庫自体がきれいさっぱり流されてなくなってしまっていたという事態も可能性としては考えられます。どのような事態にも備えて万全の備えをするのは基本ではありますが、様々な資材が不足する災害時では、使えるものは使おうとするのもまた常道です。これが、先行したドローンによる偵察で、防災資機材倉庫が大破している様子が見えていれば、それが情報となり、必要な資機材を予備も含めて万全に準備して出動するきっかけになるかもしれません。しかし、倉庫が影も形もなくなっていて、ドローンパイロットがそもそもそこに倉庫があったということを認識していなければ、「倉庫がなくなっている」という情報が伝達される可能性は極めて低くなります。

忘れ物を失くすためのチェックリストも、様式の一類型です。見落とすおそれのある項目、無くなっているかもしれない項目も、事前に確認様式に含めておくことができれば、情報収集の精度はぐっと高まるでしょうし、なにより、見落としを再確認するための二度手間、三度手間を縮減して迅速な対応が可能になるはずです。

 

手間を減らす様式の技術

 宅配便の伝票を作成する上で、一番の手間は住所の記入でしょう。特に、差出人は何べんも同じ自分の住所を記入するので、ストレスの多い作業です。最近はパソコンで情報を入力して出力できるような仕組みが一般的になってきて、そのようなストレスを感じる機会も減ってきているかもしれません。ひと昔前なら、そうした手間を省くために、宅配便業者が頻繁に荷物を送り出す得意先には、得意先の住所をあらかじめ印刷した伝票を用意する、というのも良くみる光景でした。
 陶磁器を出荷するお店のスタッフになったと想像してみてください。ばんたび記入しなくてはいけないのは、住所もさることながら「ワレモノ注意」という注意書きです。しかし、これはあまりストレスにはなりません。「ワレモノ注意」の指定については、伝票に印刷してある「□ワレモノ」の欄にチェックを入れるだけで済むからです。
 このように、チェックボックスを用いた選択肢の提示は、記入の手間を省くという意味で、便利な様式には欠かせない手法です。チェックボックスは工夫次第で様式の利便性に大きな影響を及ぼします。
 冒頭の事例でご案内したような、医療機関の問診票で痛みの種類を、ギュー、とか、キリキリ、ズーンとチェックボックスで並べておいてくれたら、患者さんはもっと言いたいことを手短に医師に伝えられるかもしれません。
 一方で、筆者が様式設計という観点で見た時に、あってもなくてもいいのではないかと思うチェックボックスもあります。住所記入の際の都道府県のチェックボックスなんかはその一例です。仮にチェックボックスがなくて、「大阪」としか記入がなくても、それを「大阪県」だと思われることもないでしょうし、思われたところで大した支障は来さないように思います。千葉県と千葉市のように重複する部分がありますが、千葉市をいくらなんでも千葉と省略する人はいないでしょうし、千葉県佐倉市上志津の方は、なかなか「千葉上志津」とは省略することはないと思うんですよね。そして、「北海」だけ書いて「□道」にチェックを入れるというのは、なんとも不自然な気がして仕方がありません。北海道の方はすっかり馴染んで気にされないのかもしれませんが。ちなみに「京」だけ書いて「□都」と「□府」にチェックを入れるという事例を拝見したことがありますが、京都府の皆さんが全員そうやって、チェックボックスを便利がっているとも思えません。
 余談が過ぎましたが、さて、チェックボックスは何も最初から完璧に揃うものではありません。筆者が顧問を務める企業では様々な様式を準備していますが、それも最初から十全に整えられていたわけではありません。最初はむしろ殆どが自由記述の様式でした。それが、ちょっとした地震が起きて鉄道の運行が止まってしまった、といった実際の事例や、訓練で活用した結果などを集計し、丁寧に分析をかけていった結果、頻度の高い記入項目をピックアップしていってチェックボックスにしていくことで、使いやすい様式が徐々に整えられていきました。
 チェックボックスの整った様式というのは、その組織の経験と知見の成果であるとも言えます。あと、チェックボックスを整備したときに、チェックすべき該当要素が一つもなかった時の場合にチェックできる「□異常なし」といった項目を用意しておくことで、記入者が、きちんと確認した結果、チェック項目がないのか、当該項目のチェック自体をすっ飛ばしてしまったのかの違いが判明し、便利です。

 

実際に飛ばしてみた

 さて、本コラム第5話「活動情報を整え付加価値を生み出す」では、災害時に支援を求める医療機関や避難施設との事前の取り決めができていれば、様式を活用することで、屋上にシーツで「SOS」と文字を作る異常の情報の伝達が実現するはずだ、と書きました。
 あの話題を執筆した後に、実際にドローンを飛ばす機会があったので、実験をしてみました。写真はA3の用紙に、3センチ程度の大きさで文字を書いたものを、上空3m程度まで接近して撮影した画像の一部です(使用機材:DJI/PHANTOM4)。この病院がいま何を求めているかを読み取ることができます(病院名等はダミーです)。

【画像案】病院(ビル)の屋上にドローンが接近しているところ。屋上に小さな紙片が貼ってあり、目印のコーンが置いてある、そこから吹き出しで、下の画像(これは写真のままでOK)

 このような形で様式を活用すれば、災害時のドローンの活用にも更なる幅と奥行きが見えてくるのではないでしょうか。

 

 

 


国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員     
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員 
佐伯 潤   

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