17 防災グッズのキモはカスタマイズ

2023年 03月01日

ご自宅の防災グッズ、ちゃんと分けていますか?

 ネット通販サイトは勿論のこと、ホームセンターや、最近は100円均一ショップでも防災グッズのコーナーを見かけることがあります。さらには、毎年、2011年の東日本大震災が発生した3月11日や、9月1日の防災の日(1923年9月1日に関東大震災が発生したことに因みます)になると、新聞の折り込み広告などにも防災グッズの宣伝が入っていることもあります。
 読者の皆さんも、ご自宅に防災グッズを揃えているという方は少なくないでしょう。さて、そのご家庭の備蓄ですが、しっかりと分けて管理されているでしょうか。あれもこれもと必要そうなものを1つの段ボールに詰め込んでいたりしませんか。あるいは、30種類ものアイテムが一つのバックパックに収まっているセットを購入しただけで大丈夫だと思っていませんか。
 防災グッズは、在宅避難用のアイテムと、避難所などへ移動する際に持ち出すためのアイテムとの2つに大別する必要があります。防災グッズの備えは、まずこの二種類を意識的に分類することから始める必要があります。災害が発生した場合には、避難所へ向かうということを当然のように考えておられる方もいらっしゃるかもしれませんが、必ずしもそれが正解というわけではありません。そもそも避難所は、災害に際して居場所が確保できない人のために生活環境を整備するために設置される施設です。そのため、自宅が継続的に居住可能な場合は、在宅避難が優先されます。
 よって、防災グッズも、避難所に向かう場合に備えておくべきものと、在宅避難を継続する場合に備えておくべきものを分けて考えなくてはならないのです。

 

非常用持出袋の要点

 避難所に向かう場合に必要となる防災グッズは、グッズをひとまとめにした状態を指して、非常用持出袋や緊急避難セットなどと総称されることがあります。通販サイトでも、防災グッズと検索すると、この非常用持出袋が多く表示されます。バックパックに30種類くらいのアイテムが収まっていますが、果たしてそんなに必要でしょうか。また、それだけで十分でしょうか。
 そもそも非常用持出袋は、自宅あるいは職場から避難すべき場所へ移動する際に持ち出す防災グッズが詰まっている必要があります。避難先での滞留が何日になるかはわかりませんが、そこでの一時的な生活が送れるようなアイテムを備えておく必要があります。移動と滞在を分けて考えてみましょう。
 移動については、安全を確保することが最優先ですから、転倒などの危険を考慮してグローブが必要ですが、軍手は目が粗くトゲなどが容易に入り込んできてしまう上に指先の利便が失われます。少なくとも手のひら部分がゴムでコーティングされたグローブを用意したほうが良いでしょう。懐中電灯は片手が塞がってしまいますから、ヘッドライトの方が好ましいと考えられます。また、夜間の避難などヘッドライトが必要な移動については、あなたにとって周りが暗くて見えないのと同様に、周りは暗くてあなたのことが見えていません。反射ベストなどの反射材も有効です。移動中の熱中症対策として水分は是非とも用意しておきたいですし、簡単に口に入れられる飴やエナジーバーのような食糧もあっても良いのですが、レトルトパックやお湯で戻す非常食は移動中の食糧としては不向きですね。あわせて、非常用持出袋とは別に、ヘルメットと歩きやすくて頑丈な靴も用意しておくべきでしょう。
 滞在については、避難所は、最低限の段ボールベッドや毛布などの休息のための備えがありますし、滞在者向けの水や食糧の備蓄、トイレの準備があるのが前提となります。避難所での生活は集団生活が基本となります。アレルギーなどの理由で食事に特別な配慮が必要な場合はさておくとしても、周囲が配給された非常食を食べている時にカセットコンロと缶詰でわいわいやるのも気が引けます。また、避難所での火気の使用は火事の危険や、火事に至らずとも一酸化炭素中毒の危険性を伴います。非常用持出袋には非常用の携帯トイレが入っているものもありますが、どこで利用するのでしょうか。避難所には臭いの問題など課題は議論されているものの、少なくともトイレはあります。多くの家族が間仕切りで仕切られた体育館などに身を寄せている中で携帯トイレを使うのも現実的ではありません。ただし、女性や子どもが避難所のトイレを夜間使用する場合に性犯罪などの危険があるのもまた現実です。携帯トイレの代わりに、どうしてもトイレに行きづらい場合を備えてオムツを準備しておくのはアイデアとしてアリでしょう。

非常用持出袋のセットに含まれていませんが、確実に必要になるのが着替えです。風呂に入れないからって死ぬことはないとは言いますが、衛生面の観点から少なくとも下着の替えは用意しておいた方が良いでしょう。コンタクトレンズを使用されている方であれば、レンズの洗浄液が必要です。持病の関係などで常用薬を用いている方は保険証のコピーにあわせて、お薬手帳を用意しておいてください。体調が安定していて、どんな薬を普段摂取しているかがはっきりすれば、災害時は医者にかからずとも薬剤師の判断で薬を受け取ることが可能になる場合があります。
非常用持出袋は、文明から隔絶された山に分け入ってサバイバルキャンプをするための装備ではありません。セットで購入するのも悪くは無いのですが、自分にとって何が必要か、不要かを判断しておくことが大切です。2泊、3泊の旅行に出かける感覚で自分にとって何が必要かを考えてみると、案外何が必要かが見えてきます。アメニティグッズなどはポーチにまとめておいて、出張や旅行、休みの日の遠出などにも持ち出してみると、使い勝手の確認ができます。

 

在宅避難の備蓄は3つの観点で

在宅備蓄については、電気、ガス、上下水道といったインフラが停止した状態でいかに生活を送るのかがポイントになってきます。一方で普段生活している場所ですから、寝具や着替えなどは普段通りと考えることもできるでしょう。この場合、3つの観点で必要なアイテムを整理してみましょう。①水・食糧、②衛生、③出るものの3つです。

水・食糧は最も基本的な要素で、どなたでもイメージがつくのではないでしょうか。3日から7日間分の水・食糧は準備しておきたいものです。カセットコンロのような独立して利用できる調理器具があると便利ですが、停電時は換気扇も動きませんので、換気には十分に気を付けてください。
衛生は手洗いやトイレ関連です。携帯トイレの準備は1日、1人、5セットが目安とされていますが、筆者の子どもらを見ていると、それ以上の回数トイレに行っています。ビニル袋と消臭剤が100セット単位でコンパクトな段ボールに収まっているものもありますから、多めに用意しておいた方が良いでしょう。段ボールなどで組み立てられる簡易便座などもありますが、建物の安全が確認されていることが在宅避難の前提です。したがって、水が流せなくても、携帯トイレを使用する場所として、トイレは利用できます。簡易便座は無くても良いでしょう。
3つめの、出るもの、ですが、これはゴミや排泄物などを指します。備蓄した様々なアイテムを使用すれば、それらは必ず出るものに変わります。非常食などは、パッケージがゴミとなり、中身は食べればなくなってしまいますが、数時間後には排泄物になって出てきます。災害時に停止するインフラとして忘れてはならないのが、ゴミ収集サービスです。年末年始にゴミ収集がお休みになる時期を思い出してみてください。1週間程度ゴミ収集が止まっただけで、年明けのゴミ回収日にはゴミ袋が山のように積み上げられます。在宅避難中は、大量なゴミに対応するためにゴミ袋を備蓄しておく必要があります。万が一内容物が漏れ出してコンクリートやタイルなどに染みを作ってしまわないように、あるいは、カラスや野良猫がいたずらしないように、ブルーシートを用意しておくのも良いでしょう。

 

とにもかくにも使ってみる事が重要

本コラムでも、常々実践することの重要性をご案内してきました。知っている、持っているということと、経験しているということの間には大きな隔たりがあります。防災グッズも購入しただけでは備えた事にはなりません。必ず一度は使ってみてください。使ってみることによって何が足りないかを把握することができます。
例えば、今回のコラムでもご紹介している携帯トイレですが、在宅避難で使用する場合、携帯トイレを準備しておくだけでは不十分です。使用済みの携帯トイレをまとめるゴミ袋は勿論のこと、各種インフラが停止した状態で使用するのが携帯トイレです。電気が止まっている状態では、トイレの明かりがつきません。トイレに窓が無い場合には、昼間であってもトイレは暗室となります。トイレ用にランタンを用意しておいたほうが良いでしょう。細かな具体例については、また別の機会にご案内をしていきますが、使ってみて分かることは少なくありません。いっぺんに全てをトライしなくても、週末のたびに一つずつでも、使ってみる事が大切です。

水や食糧は誰にとっても必要なものです。しかし、個人レベル、あるいは家庭レベルでは、それぞれに独特な習慣や、スタイルというものがあるものです。常用薬やアレルギー対応にも個人差があります。お仕着せの30点セットが詰まった防災グッズでは、そうした個々人の差異については対応しきれません。確実な安全を確保するための災害への備えのために、ぜひ、使ってみて、自分なりの、家族なりのカスタマイズを検討してみてください。

 

 

 

国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員   
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員 
佐伯 潤 

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