33 災害現場であなたに出来る事は何なのか

2023年 11月01日

サーチ&レスキュー

 筆者は普段、複合施設や工場、あるいは学校といった様々な現場で災害対応のための訓練を実施しています。読者の皆さんも一度は体験したことがあるであろう、消火器を用いた初期消火の訓練や、避難訓練等の実動訓練の時もありますし、発災時の特定の対応行動を切り取った段取り確認のための訓練や、受講者一人ひとりが負傷者になったと想定し、なんで負傷したか、その原因を考えることで潜在的なリスクを洗い出すといった座学形式の訓練もあります。様々な訓練プログラムの中でも、特に丹念な準備と、多くのインストラクターを導入するデラックスな訓練の1つに、サーチ&レスキュー訓練があります。
 これは、受講者が救助班や救護班、指揮所など助ける側と、要救助者役(助けられる側)に分かれて、制限時間内に特定の場所を捜索し、要救助者を発見、救護所まで搬送するという訓練です。かなり本格的な訓練に聞こえますが、そのレベル設定は様々で、ありとあらゆる想定の要救助者役が混在し、時に専門的な救急隊が到着するまでは動かしてはいけない(頸椎損傷や骨盤骨折の疑いがある場合などが該当します)という判断をしなくてはならないようなハイスペックな設定になることもある一方で、高校生を相手に限られた条件だけで実施するお試し訓練のような設定にすることもあります。

 当然、その設定したレベルによって、訓練を通して目指す学習目標も変わってきますが、どのレベルの受講者にも共通する失敗と学びがあります。勿論、それは訓練を受ける事によって得られる学びですので、このコラムでその内容をお伝えしても、実体験には及ばない部分があるのは事実ですが、知ることだけでも、学びの端緒が掴めるのではないかと思い、今回のお話しはこのサーチ&レスキュー訓練から始めていくことにしましょう。

 

共通する失敗

 設定したレベルにかかわらず、サーチ&レスキュー訓練において、訓練が意味あるものになるか否かの鍵は要救助者役の演技力にかかっています。足首をひねって動けない要救助者役は、痛い上に、足首以外は問題がないので、大声で助けを求めます。一方で、かなりの重症を負って朦朧としている要救助者役は、ぐったりとした演技が必要です。この演技力が大切なのです。
 大抵の場合は、搬送の優先順位はあらかじめ指導しますし、そうでない場合でも、各班にどの要救助者役を搬送するかを指示した上で、重症者を搬送する班から現場に投入していきます。現場では、足首をひねった要救助者役は「すごく痛くてあるけないんだよ、早く助けてくれよ!」と喚き散らしています。ただし、大声を出せるというのは元気が残っている証拠。意識もはっきりとしているし、発声しているということは、呼吸もしています。すぐさま命にかかわる状態でない可能性が高いです。優先順位をわきまえている救助班は、淡々と重症者から救護所に搬送していきます。

 文章を追いかけていくと、救助班は妥当な判断をしていますし、災害の現場はこんな感じなのか、と思われるかもしれません。しかし、ここに共通する失敗が含まれているのです。
 一通り、状況(シミュレーション)が終了したあとは、振り返りの時間です。ここで様々な意見や感想を述べあって、改善点を見つけていきます。筆者はよく、要救助者役の方々に最初の発言を求めます。「文句でもいいからどんな気分だったか教えて」と投げかけると、多くの要救助者役から「怖かった」「不安だった」「寂しかった」という声が上がります。中には「(救助班が)なかなか助けに来てくれなくて、あぁ私はこのまま死ぬのかな、って思っちゃいました」といった切実な感想を聞くこともあります。
 前述の例で紹介した救助班は、しくじっていたのです。優先順位が高い重症者の元へ向かう際など、いますぐ助け出せない要救助者の近くを通るときには、「必ず助けに来るから、もう少し頑張って」と声をかけてあげるべきだったのです。その声掛けが無かったために、救助班に目の前を素通りされた要救助者役は、無視された、私は助けてもらえない、という印象を抱いてしまったのです。しっかりと演技をしていた要救助者役の方が、よりそういった感想を強く持つようです。

 

負傷し、孤立する恐怖

 救助の現場だけではありません。救護所に搬送された後も同様です。救護所でも優先順位が高い順に対応をしていきます。優先順位が高くはない要救助者役は、ここで待ってて、と言われたきり放置されてしまうことが少なくありません。ここでも要救助者役は不安や孤立を感じています。
救護所にいる救護班も最善を尽くしているのです。ただ、運び込まれる要救助者が増えてくると、すぐに戦力不足に陥ります。人手が足りなくなるのです。しかし、だからと言って運び込まれた要救助者を無視していいわけでもありません。訓練では、手の空いている人員、あるいは、軽症の人に応援を求め、運び込まれた要救助者の傍にいてあげる、といった戦術をとってもらう事もあります。応急手当が出来ないとしても、傍にいて、声をかけてくれる人がいるだけで、要救助者の不安が少しは和らぐかもしれないからです。
 こうして1回目の状況を終えた後に、要救助者役を交代して、2回目の状況を実施します。先ほどまで要救助者役だった人が、今度は救助班役として活動します。要救助者役であった人も、また、振り返りで要救助者役の気持ちを共有された人々も、2回目では、かなりの割合で要救助者へのケア(声掛け)ができるようになっていきます。救護所で要救助者に寄り添うというケアも、1つの大切な役割だと認識されることによって、体力的に搬送がつらい、といった人員が救護所でのケア役になってサポートをするといった柔軟な役割分担ができるようになったチームも過去にはありました。

 要救助者役の経験を通して、また、その振り返りによる共有によって、負傷した要救助者がいかに不安かに気付くことができた。これが、様々なレベル設定のサーチ&レスキュー訓練に共通する学びなのです。

 

できることを見つける大切さ

 本格的なサーチ&レスキューを民間人がやろうとすると、相当な訓練が必要となります。安全確保、要救助者へのヒアリング、応急手当、民間人が手を出しちゃいけない状態の判断、搬送技術、医療機関との連携などなど、様々な技術と知識の集大成の1つがサーチ&レスキューであるとも言えます。やる気と知識、訓練経験があったとしても、体力的に十分な活動ができない可能性も考えられます。
 以前、とある女子高からの依頼で、高3の女子高生の防災訓練として、体験版的なサーチ&レスキュー訓練を実施したことがあります。彼女たちは体験版とは言え、搬送の大変さや、要救助者の観察の難しさを身をもって体感しました。そこで、なにより大きな学びとなったのが、要救助者の心細さでした。訓練経験を通して、搬送作業などに積極的に参加することは体力的、筋力的に難しいかもしれない、ただ、搬送された要救助者がいたら、その傍に寄り添ってあげることで、少しでも要救助者の心細さを軽くしてあげることはできるかもしれない、という気づきを得ました。

 とはいえ、傍に寄り添うことによって、要救助者の話し相手となる可能性も考えられ、聴き手になることによって、要救助者の言葉に含まれる悲しさで、聴き手のメンタルがダメージを受ける危険性もあるために、安全に活動するためには、メンタルケアについての訓練も受けておいた方が良いことは間違いありません。しかし、そうやって少しずつ学びを深めていくことにより、災害時に自分なりの役割を見つけられる人材が育っていきます。一人ひとりの取組みが、災害による被害の軽減と、より多くの命をつなげるきっかけとなります。
 社会の仕組みを含めて、ドローンを取り巻く環境は日々変化しています。読者の皆さんの中にも、ドローンパイロットとして災害時に活躍することを目指し、あるいは、期待されている方も少なくはないことでしょう。では、ドローンのバッテリーを全て使い切ってしまった後はどうしますか。防災に興味を持たれたのであれば、様々な訓練にトライしてみて、状況に応じて、自分のできることが見つけられる防災人材を目指して頂けたら何よりであると願っています。

 

 

 

 


国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員     
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員 
佐伯 潤 

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