34 貴重な通信オプション、171
2023年 11月15日
災害時の情報通信ツール
発災の瞬間は、一人ひとりが、直面している危機に対処し、生き残らなくてはなりません。ただ、例えば地震による揺れが収まった次の瞬間からは、連絡、連携が重要な課題となります。家族の安否を確認する必要もありますし、社会人として所属する組織における災害対応の役割(BCP計画の実施も勿論含まれます)を果たすために組織と連絡を取る必要もあります。あるいは、あなたや、あなたの周辺の状況に応じて助けを求めなくてはならないことだってあるかもしれません。
防災グッズの定番であるホイッスルは、自分の居所を知らせるという意味では、もっともシンプルな情報通信ツールと言えるでしょう。しかし、通信ができるのはホイッスルの音が届く範囲ですし、音に具体的な情報を載せることも殆どできません。(スポーツ競技におけるレフェリーが、ファウルや試合終了の合図を吹き分けるように、ホイッスルの吹鳴の仕方に意味を持たせてチーム内のコミュニケーションに活用することは可能です)今回は、日常的に使っているスマホやメッセージツールなど、具体的な情報のやりとりについて、災害時の運用を考えてみましょう。
普段使用しているスマホや、社内など施設内で使用しているIPフォンなどは、非常用発電機や、非常用電源が機能し、施設内のネットワークが機能していれば、ある程度の利用は可能です。衛星通信型の携帯電話も災害時のツールとして検討されることがあります。もともとが海上通信のツールとして発達してきた衛星電話は、中継地点となる静止軌道上の人工衛星(機種によって異なりますが、日本ではだいたい南から南南西の方角にあります)と電波送受信のクリアランスが取れないと接続できません。よって、ビルの多い都市部や、山間部では屋上アンテナなどの追加設備がないと使い物にならないケースが多いのが難点です。
原点に立ち返る公衆電話
災害時の情報通信インフラとして、公衆電話が挙げられることがあります。東日本大震災をはじめとした過去の災害で利用した経験のある方にとっては、なるほど便利なインフラだと身をもって感じられた方がおられるであろうと思います。一方で、スマホの普及によって、電話がつながらなくても、メッセージアプリがあるし、普段でもメッセージアプリの音声通話機能を使っているから、大丈夫、と考えている方もおられるかと思います。確かにスマホを活用する手段も悪くはないのですが、スマホには特有のリスクがあり、例えば、メッセージアプリを運用するサーバーが混雑してしまった、あるいは、障害が発生した、ということも考えられますし、携帯電話の基地局が被害を受けて、そもそもネットワークに接続できないという可能性も考えられます。それを言い出したら、公衆電話の電話線だって断絶する可能性があるかもしれない、というリスクを考慮せざるを得ず、キリがなくなってしまいますので、その議論は一旦おくとしましょう。それでも、スマホには、バッテリー切れ、さらには携帯しているモバイルバッテリーも残量が無くなってしまう、という状況も想定されます。
様々な可能性を考慮していく上で、公衆電話の存在感を考えておくことは決して悪いことではないと思います。ただ、現在、公衆電話の数は減少傾向にあり、2000年3月末の時点で全国に73万台以上設置されていた公衆電話は、2022年3月末の時点で、13万7千台まで減少しています。ただ、総務省の報告書では採算性の都合などで減少は避けられないが、最低限必要数は維持されることが確約されていることに言及しています。また、特設公衆電話というもおのがあります。これは、アナログ式の電話機と回線だけが避難所となる場所等に備蓄として用意され、普段は使用されることがありません。災害時に避難所等の開設に合わせて電話機が設置され、これは無料の公衆電話として利用できます。2020年3月末の時点で全国で8万台以上が準備されています。2012年3月末の時点では1万7千台程度であったことを考えれば、なかなかのスピードで普及が進んでいると言えるでしょう。
さて、公衆電話は何がすごいのかと言えば、一般的に通常の電話回線は、災害発生等にともなって、電話回線が混みあった場合に通信制限が実施され、一部の発信や接続が規制されます。それに対して、NTTが設置する公衆電話(特設公衆電話も含まれます)は、優先電話の扱いとなり、通信制限を受けません。たしかに、公衆電話から被災地域のスマホに電話をしても、受け手のスマホが通信制限を受けていたら、つながらないことも考えられます。ただ、被災地外の親戚などの電話は、通信制限を受ける可能性が低いことから、通話できる可能性が高まります。
公衆電話までたどり着いた、長蛇の列が出来ていたものの、なんとか自分の順番が回ってきた。そんな時に、あなたなら誰に、どこに、電話をかけますか。どこかで被災しているかもしれない家族のスマホにはつながらないかもしれません。そんな時に、利用できる通信の奥の手が、171、災害用伝言ダイヤルです。
意外にも奥の深い171
171災害用伝言ダイヤルは、NTTが提供する災害時のサービスで、171に電話して、連絡を取り合いたい人と共有している電話番号をキーに30秒間のメッセージ(最大20件)を残したり、聞いたりすることのできるサービスです。これだけ聞くとあまりパッとしない印象かもしれません。ただ、171には、web171という兄弟分がいるのです。Web171は2005年から提供が開始され、2012にバージョンアップをはたした、ネット版の171です。
Web171の場合は、171と同様に電話番号をキーに、氏名、定型文の選択(無事です/被害があります/自宅にいます/避難所にいます)と、100文字までのメッセージを残すことができます。
なにより、171、web171がすごいのは、相互連携が取られていて、171で録音されたメッセージを、web171で音声データとして確認できるほか、web171で保存されたテキストデータを、171で音声データとして聞くことができる点です。インターネットにアクセスできる環境にありながら、電話はつながりづらい、という方であれば、web171からメッセージを残すことができますし、外出先でスマホの充電が切れてしまい、なんとか公衆電話に辿り着けた、という方であれば171でメッセージを残したり、確認したりすることができるのです。
また、他人のスマホを借りれた場合でも、メッセージアプリなどを使うには、持ち主のアカウントを一度ログアウトして、自分のアカウントでログインしなおす、ということをしないといけないかもしれません。それが、ブラウザが立ち上がれば、ログインの必要のないweb171であれば、すぐに利用をすることができます。
変則的な使いかたですが、会社の事業所に残っている方が、会社の代表番号や、総務部の電話番号に、事業所の状況をメッセージとして残しておけば、外にいる従業員は、少なくとも171、web171を介して状況を把握することが可能になるかもしれません。
訓練に勝る防災はなし
これまでも機会のあるたびにご案内してきた通り、どのようなツールや方法であっても、訓練を通して試しておかなければ、災害時に活用できることはありません。
171、web171は災害が発生したときに利用できるサービスですが、体験利用の機会が提供されています。
毎月1日, 15日 00:00~24:00
正月三が日(1月1日00:00~1月3日24:00)
防災週間 (8月30日9:00~9月5日17:00)
防災とボランティア週間 (1月15日9:00~1月21日17:00)
これらの日程では、体験利用をすることができます(実際に災害が発生した場合には体験利用ができない場合があります)。一度試してみる事をおすすめします。
また、家族や仲間うちでメッセージを残す番号を決めて、共有しておく必要があります。必死にメッセージを残していても、お互いが相手の電話番号に残しあっていたら、すれ違いが生じてしまい、メッセージにたどりつくことはできません。
メッセージを確認するタイミングを決めておくことも重要です。例えば、毎正時(0900時や1200時など)と30分に確認する、といった決め事です。特に、基地局が被災し、電波状況が良くない状況では、スマホや携帯電話は、強度の強い電波を求めて、基地局のサーチを続けます。この動作はなかなかに電力を消費します。また、基地局をサーチした結果としてつながれば良いですが、つながらない可能性のほうが高い場合には、無駄な行為に貴重な電力を消費してしまうことになります。とはいえ、電源をこまめに入り切りすると、起動時にかなり電力を消費しますし、電源を切ってしまえば、地図アプリで地図を確認することもできなくなってしまいます。通信するタイミングを決めてしまえば、残りの時間は「機内モード」にしておくことも1つの方法です。機内モードに設定することで、回線だけでなく、WiFiやブルートゥースなどのアンテナもオフになるために、待機中の電力消費をかなり抑制することが可能です。
毎月と言わずとも、半年に一回程度、171、web171の体験利用をしておくことで、災害時の情報通信に関して、選択肢を1つ増やすことができます。来月の1日にでも、一度試してみてはどうでしょう。
国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員
佐伯 潤
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