36 2023年の防災を振り返る
2023年 12月15日
2023年を振り返る
本コラムも今回で第36話を迎えました。2022年8月の公開から1年以上の時間が経過したわけですが、今回は、12月ということもあり、2023年の防災について振り返りつつ、話題を展開していきたいと考えました。2023年の大きな出来事の1つとしては、ドローンの操縦ライセンス制度が創設され、さらに、レベル4飛行が解禁されたことが挙げられるでしょう。年末になり、レベル3.5が設けられ、150mの飛行空域に更なる緩和措置も取られるようになりつつあります。
テクノロジーだけでなく、制度面での整備が進み、できること、できないこと、課題などが整理されていくことで、ドローンの活用に具体的な方向性が示され、ドローン活用の更なる活性化が期待されるようになった年であるとも言えるでしょう。夏にはNTTデータが三浦半島から離陸したVTOL型のドローンを自律飛行で70kmの工程を経て、大島を周回させ観測するという実験を成功させています(NTTデータのリリース記事より https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/092200/)。
防災においては、「情報を制する者は、災害を制する」という重要なコンセプトがあります。本コラムでも、これまでに災害時の情報の取扱いについてはたびたびご案内してまいりました。被災状況のみならず、どのような支援が、どこに必要なのか、対処の緊急度の高い地域はどこなのか、そうした情報をとりまとめ、限られた資源を最大限に活用することが、災害による被害を縮減させる重要なカギとなってきます。飛行機、ヘリコプターだけはカバーしきれない細かい領域、あるいは、より即応性の高い小回りの利く対応によって俯瞰的な位置から視覚情報や、付帯する情報を収集できるドローンは、防災の分野でも、有用な戦術として大きな期待が寄せられます。勿論、物資の輸送という観点でもドローンの活用の可能性は考えられますが、ペイロードの制限や、ドローンのスペックの問題もあることから、今回はドローンの情報収集能力を中心に、ドローンと防災の関係性について考えていきましょう。
様々なニュースソースをチェックしていても、地方自治体が実施する防災訓練のニュースには、必ずと言っていいほど、ドローンによる被害情報の収集の話題が登場しました。昨年、筆者が全国の自治体に行ったアンケート調査では、機種選定で悩んでいる、近隣自治体の動きを見つつ導入を検討している、とか、ヘリコプターがあるから大丈夫、といった回答が多かったことを考えると、2023年は、ある意味防災ドローン元年と言えるのかもしれませんね。
防災のすべては備えで決まる
これまでのコラムでもご案内してた通り、防災は備えがすべてと言っても過言ではありません。水や食糧に代表される備蓄物資も、文字通り、蓄えを備える防災です。あらかじめ段取りを確認し、対応を改善するという意味で、訓練も備えです。これからの防災ドローンにはどのような備えが必要になっていくのでしょうか。
当然、パイロットの練度維持や、人員確保は欠かせません。24時間、365日、職場に待機しているコンビニエンスストアみたいな人はいないわけで、ドローンのクルーも複数備えられていることは必須ですが、筆者がニュースソースなどを観察している限りにおいて、その点は問題なさそうです。機体自体は高価ですから、バックアップに何機も用意する、というのはなかなか現実的ではないかもしれませんが、 その点は、業務上、機体を複数所有するドローンスクールや、ドローンのレンタル業者と連携することで解消できそうです。このあたりは、自動車と似ているかもしれませんね。台車の用意は無くても、車には必ずスペアタイヤが搭載されています。これと同様に、ドローンについても予備のプロペラや、プロペラガードなどは備えておくことができるかもしれません。バッテリーは複数用意してローテーションで使用するのが一般的ですが、こちらについては、バッテリー本数もさることながら、バッテリー性能の都合で、満充電で保管ができないことを考えれば、電力の確保が重要な備え上の課題となってきます。
読者の皆さまであれば、すでにご案内のとおり、ドローンの運用については、とにかく電力が必要となります。それは、ドローン本体のバッテリーだけでなく、プロポにもバッテリーが必要ですし、観測用のPCや付加的な通信資機材を考えると、電力が不足すれば無用の長物となってしまうことについて、当然ながら配慮が必要となってきます。
この電力の確保についても、2023年は、筆者の個人的な感想として、ハイブリッドの発電機をよく見かけるようになった年でもありました。発電機といえば、工事現場やイベント会場で見かけるガソリン駆動の発電機が一般的で、防災備蓄ではカセットボンベを使用するタイプもよく見かけます。ただ、ガソリン駆動の発電機は、備蓄物資にするには課題があり、ガソリンが劣化する問題があります。ガソリンの保管期限は半年が目安とされていますが、筆者が確認した備蓄倉庫の発電機の中には、2年前の購入時にガソリンをタンクに入れたままずっと放置された状態というとんでもない事案もありました。そんな中、ハイブリッド型の発電機はプロパンガスが一般的な地方では配備が増加しているようです。これは、ガソリンだけじゃなく、プロパンタンクを直接接続してガスで発電できる発電機です。ドローンの安定的な運用のためには、こうした発電機の備えも含めて検討しておく必要があるでしょう。
資源の節約
防災訓練で感じる備えの危うさの1つに、無駄の多さがあります。必要のない灯りをつけっぱなしや、水タンクの垂れ流しなど、要所要所で無駄を感じることがあります。防災屋としては、スマートフォンの画面を用もないのに点けたままで放置しているのを見ても、ハラハラします。限られた資源を最大限に活かすのは防災の基本ですし、節約という観点からすれば日常の基本とも言えます。まぁ、ここは防災のお話しですから、あまりけち臭い話をするつもりはありませんし、戦時中のスローガンのごとく「贅沢は敵だ」だの「欲しがりません、勝つまでは」などというわけではありません。
ただ、通信に関しては、インターネットとSNSやメッセージアプリのおかげで、現代はかなり贅沢な環境にあることは認識しておくべきだと思います。そして、贅沢な通信は、回線帯域と時間という災害時には非常に貴重な資源を浪費しています。対面でやりとりし、口頭でコミュニケーションを取れるならまだしも、なんらかの機器を用いて通信を行う必要がある環境であれば、常時接続という概念ではなく、必要な情報をやりとりしたら、適切なタイミングまで、あとはそれぞれ単独で活動できることが理想です。それが、メッセージアプリのために、高頻度でやり取りができるようになっており、それに慣れてはいないでしょうか。
ここで問題になるのは、安否確認は重要ですが(たしかに、相手が子供の場合などは、安否確認をしたあとも心配なのはわかりますが)、その後も常時接続的に通信を行おうとすることです。1つ1つは大した通信量ではなくとも、多くの人が同様の行動をとり始めると、その情報量は否が応でも肥大化します。一方で、デジタル化が進んでいる今日、通信システムにはLTE回線を使用するものが少なくありません。ドローンの映像転送にもLTE回線は使われています。映像の送受信が安定しなかったために、見つかるべき要救助者が見つからないことがあっては、せっかくドローンが飛べたとしても、その価値は一気に低減してしまいます。
通信回線の帯域も、水や食糧、電気やガスと同様に重要な社会インフラですし、それは災害時の資源なのです。平時とは異なり、節約を意識して、多くの人が利用できるよう、また、つながる命がつなげられるよう、努力する必要があります。
負の外部性
経済学などで用いられる用語に「外部性」という言葉があります。これは、あなたが行う経済活動で、第三者に与える影響を意味します。もともとは工場が製品を製造する過程で発生する廃棄物が公害を引き起こし、第三者の健康を害する影響などを、負の外部性といって捉える概念です。
この負の外部性は、災害時において、私たちが意識すべき要素です。例えば、帰宅困難者対策がそうです。現在、日本国内の特に都市部では、大規模災害が発生した直後の一斉徒歩帰宅を抑制することが求められ、条令によって規定されています。これは、発災後の不安定な環境で無闇に移動をし、混乱に巻き込まれると危険であるという理由があります。しかし、多くの人が一斉徒歩帰宅をし始めると、群集が形成され、群集事故の発生リスクが高まる、という負の外部性があります。更には、路上に人があふれ、その群集が緊急車両の通行を困難にさせる、という負の外部性もあります。
一斉徒歩帰宅を抑制するためにも、安否確認手段の確保が求められているわけですが、今度はこの安否確認の方法がビデオ通話であったりすると、前述の通信資源の費消につながり、必要な通信機器がLTE回線に接続できない、という負の外部性が生じます。簡潔明瞭なコミュニケーションに取り組み慣れ親しんでおくことで、それが日々の訓練となり、災害時には役に立つかもしれません。このシンプルな通信方法が通信回線という資源を守ることにつながる可能性もあります。ただし、これは、私が1人で努力しても、あるいは、読者のあなたと2人で努力しても、影響はゼロでしょう。でも、大概の事柄のはじめはそんなものです。気付いた人から始めていけば良いのです。
さて、2023年、最後のコラム、1年の振り返りという切り出しで始めてみたものの、結局のところ、通信の話におちついてしまいました。でも、2023年は、防災でも様々なサービスがクラウドを介して提供されるようになり、ドローンが空を舞い始め、さらには生成AIが業務をサポートし、防災でもデジタル化が大きく進んだ1年であったと感じています。それはすなわち、防災の領域でも、電力と通信という資源の重要性が際立つようになってきたことに他なりません。
来年は、このコラムでは、日々の無駄を少し減らす習慣から、災害に強い生き方を得る、「平時の強靭化」をテーマに、ご案内していけたらと考えています。それではみなさん、良いお年をお迎えください。
国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員
佐伯 潤
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