18 備えは家に置いておくだけでは仕方がない
2023年 03月15日
突然やってくる災害
これまでのコラムでもご案内してきた通り、防災の基本は備えにあります。いざ災害が発生してから慌ててもどうしようもないことが多く、一方で、あらかじめ備えておくことで救われることは多々あります。避難訓練で避難経路や避難先を確認しておくことはその代表例ですし、防災グッズも重要な備えです。
さて、この防災グッズですが、普段は職場や家庭に備えてあることでしょう。しかし、皆さんの生活は職場と家庭だけで成り立っているわけではありません。職場と家庭を結ぶ通勤路や、休みの日の外出先などで被災した場合、防災グッズを揃えていたとしても、手元にないために活用することができません。前回のコラムで、防災グッズを①非常用持出袋と、②備蓄に分けて整理をしました。今回はこの2つのカテゴリーに続く、第三のカテゴリー、EDCについて考えてみましょう。
第三のカテゴリー、EDC
EDCとはEvery-Day Carryの頭文字をとったもので、直訳すれば「毎日持ち歩く」ということになり、すなわち、常に身に着けておきたいアイテムを指します。一体どんなアイテムを身に着けておけばよいのでしょうか。
EDCのセレクトは、それぞれのスタイルによって変化します。最大の要因は、収納場所です。男性の場合、割とポケットが大きいスタイルが多いので、EDCをポケットに入れておくことも可能です。ただ、男性でもスーツスタイルが一般的な方の場合、あまりポケットが膨らむのも恰好が悪いでしょうし、女性の場合には、ポケットのないスカートを着用することも少なくないでしょう。そうなると、いつも使用しているカバンに忍ばせることになりますが、カバンに入れるからといって、あれもこれもと集めてしまうと、カバンを変える際に入れ替えるのも面倒な話ですし、そもそも沢山集めればそれだけ重くもなります。
というわけで、まずは、これだけは是非とも押さえておきたいEDCアイテムをご紹介していきましょう。
① ホイッスル
災害に遭遇して閉じ込められるというのは何とも恐ろしい状況です。瓦礫にはさまって身動きが取れなくなるというのは最悪ですが、そうでなくても、エレベーターの中や、トイレの個室、備品庫などの小部屋に閉じ込められる場合も想定されます。そうした状況では大声で助けを求めるのが一般的ですが、大声を出し続けると喉はかれるし、体力も消耗します。また、普段から大声を出すことに慣れていないと、案外と大声というのは出ないものです。
筆者が実施する訓練メニューの1つに、従業員やお客様を誘導するために大声を出す訓練というのがあります。その際には大声を測定するために騒音計を用いるのですが、5m離れた地点で測定して、70デシベル以上の大声を出せる人はそれほど多くはありません。60デシベルが通常のテレビ、ラジオを視聴する音量程度ですから、それほど大きな音ではありませんね。また地下鉄車内の騒音が80デシベルくらいですから、発災時の騒然とした状況では大声はかき消されてしまう可能性があります。
筆者がおすすめするホイッスルは、ウインドストームというホイッスルで、一般的に皆さまがイメージされるホイッスルよりもサイズは少し大きめですが、120デシベルという大音量が特徴です。近くに落ちた雷や、トランペットの演奏に匹敵する音量が、通常の呼吸で出せるわけですから、心強い味方です。
② ライト
夜間の被災だけでなく、窓のない屋内での停電によって、暗闇に取り残される状況も、災害時の恐ろしさの1つです。職場や家庭でランタンなどが備蓄してあったとしても、それを取りにいく間にガラス片などを踏んでしまう危険もあります。弱い光であっても、手元や足元をとりあえず照らすことができれば十分ですから、携帯性を考えてペンライトのような小型のものでも十分でしょう。
USBで充電できるタイプのものもありますが、災害時に繰り返し利用する可能性を考えれば、備蓄しておける乾電池タイプの方が使い勝手は良いでしょう。単三電池、単四電池1本で駆動するものであれば、念のために予備の電池を1本そろえておくと安心です。
③ 反射材
ライトが必要になるような暗闇では、あなたが周囲を見えていないのと同様に、周囲の人々もあなたのことが見えていません。暗闇でお互いが確実に認識できることは安全につながります。人同士の接触でも転倒の危険性などがありますが、相手が車やバイクであったりしたら、命の危険に直結するような事故に見舞われかねません。そのために路上で作業される方々などは、反射ベストを身に着けたり、そもそも作業服に反射材が縫い付けられているものを着用しています。ただ、反射ベストは小さく折りたたんだとしてもそれなりの大きさなので、EDCにするには、ちょっと不向きと言えます。
そこで筆者がおすすめするのは、自転車売り場などで売られている反射テープです。通常であればこの反射テープは自転車の泥除けなどに貼って車からの視認性を高めるために用いますが、このテープを10センチ程度の短冊に切れば絆創膏などと一緒に携帯することも容易です。災害時にはこのテープを両肩と背中、あるいはバックパックなどに貼り付けることで、暗闇での視認性を高めることが可能になります。
④ グローブ
グローブは今回ご紹介しているEDCの中ではかなりかさばるサイズのアイテムになります。ただ、災害時には思わぬところに鋭利な突起物があったり、何かをどけるといった作業が必要になったりすることがあります。手指を負傷すると、その後の活動が大きく制限されてしまいます。また、断水などで傷口をすぐに洗浄できない場合、傷口が化膿したり、破傷風や蜂窩織炎(ほうかしきえん)といった危険な感染症のリスクにもつながったりします。
筆者がおすすめするのは、3M社のコンフォートグリップグローブ タッチです。極細のナイロンメッシュ素材で出来ているので、一般的な粗い網目の軍手のようにトゲなどが進入してくることを防ぎます。また、手のひら側合成ゴムでコーティングされているので、細かい作業もグローブをつけたままで行えるほか、スマートフォンの操作も可能です。
防災野郎のポケット
筆者の普段着はカーゴパンツなのですが、そのポケットには、EDCとして、これまでにご紹介したアイテム以外にも様々な物が入っています。仕事柄とか、困っている人がいた時にしゃしゃり出るためとか、色々な理由がありますので、これら全てを備える必要はありませんが、自分なりのEDCを考える参考にしていただけたら幸いです。
① ヘッドライト:第15話でもご紹介したように、暗闇で何か作業をする場合、片手が塞がってしまうフラッシュライト(懐中電灯)よりも、ヘッドライトのほうが効率的ですし安全も確保できます。
② メモパッドと筆記具:災害時には様々な情報がカギとなることはこれまでのコラムでもご案内してきましたが、記録をすぐに取れるようなグッズも重要です。
③ 黒いゴミ袋:絆創膏の包装紙や、何かをぬぐったウェットティッシュなど、行動をとるとなにがしかゴミが出ます。ゴミ袋は意外と重宝します。
④ ダクトテープ:海外ドラマで人質が縛られるのに使われている銀色のテープです。強力な粘着力で、応急的に何かの穴をふさいだり補強したり、用途は様々です。ガムテープのようなロールを持ち歩くのは厄介なので、細い芯材を用意し、そこに巻き直した単一電池くらいのサイズのものを携帯しています。
⑤ ウェットティッシュ:ポケットサイズのウェットティッシュは乾いたティッシュペーパーよりも、使い勝手が良いので、携帯しています。
⑥ 貼るカイロ:季節の変わり目や、急な悪天候など、思いがけない寒さに備えたアイテムです。肩甲骨の間や、おへその下あたりに貼ると、身体全体が温まります。
⑦ サインペン:負傷した時刻、具合が悪くなりはじめた時刻や、その時の様子などは覚えているようで、意外と忘れてしまうものです。サインペンであれば、メモが無くても自分の腕などにも書き込むことができます。
⑧ ペットボトルホルダー:いかなる状況でも水分補給は欠かせません。ペットボトルで水やお茶を用意していても、カバンの中にしまい込むと、ついつい取り出すのが面倒で給水を怠ってしまうこともあります。U字型の金属でペットボトルを挟むタイプもありますが、ひょんな衝撃でペットボトルが脱落することがあるため、筆者は図にあるようなバックルでペットボトルを挟み込むタイプのものを使用しています。
⑨ アロンアルファ:ちょっとした切り傷をふさぐ場合には絆創膏よりも重宝します。あくまで自己責任の範囲での使用を前提としていますので、他人の手当には使用しないでください。
⑩ 白花油:台湾で見つけた塗り薬で、液状のタイガーバームのような物品です。個人的には虫刺されから擦り傷、筋肉痛に利く万能薬だと思っています。この白花油を推すわけではありませんが、備えておくべき薬品には常用薬以外にも、普段使いしている薬も備えてあると安心です。
すぐに使えてこそのEDC
防災グッズの備えについては、揃えるだけではなく、使ってみることが重要であることはこれまでのコラムでもご案内してきた通りです。今回、EDCとしてご紹介したアイテムはどれも当たり前のように使えるものばかりだったかと思います。しかし、油断は大敵です。例えば、ライトの電池は使わないうちに自然放電や、誤作動により電池が無くなっている可能性もあり得ます。また、ウェットティッシュは干からびて、カイロは古くなって温まらないことだって考えられます。こと消耗品については、適度に使用して補充する、いわゆるローリングストックの発想をもっておくことが大切です。
もう一点、重要なことが、災害時などストレスの強い状況下にあると、自分が持っているアイテムを忘れるということが起こり得ます。さんざんに苦労したあげく、あ、そういえばこれを持っていたんだった、と気が付くこともあります。気がついて残念な気持ちになるだけなら構いませんが、せっかく適切なEDCを用意していたにも関わらず、使うことを忘れて怪我でもしたら、取り返しのつかない事態になる場合もあります。そうはならないように、第三の防災グッズ、EDCを整備してみるとともに、ぜひ、使ってみることにチャレンジしてください。
国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員
佐伯 潤
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