05 活動情報を整え付加価値を生み出す
2022年 09月01日
活動情報とはどのような情報か
コラム第3話「情報を制する者は災害を制する」では、災害時の一次情報の運用についてご案内しました。今回はもう一つの情報、活動情報(intelligence)について考えてまいりましょう。
例えばドローンを用いて、上空から俯瞰的に現場を捉えれば、視覚情報として貴重な一次情報が入手できます。しかし、これはあくまで一次情報に過ぎません。ドローンのカメラが助けを求めている人々を捉えたとしても、まだそれは救助を求める人を覚知できただけであって、直ちに救助に向かうには情報、すなわち活動情報が不足しています。では、どのような情報が補足されるべきなのでしょうか。皆さんはどのような情報が必要であるとお考えになるでしょうか。
例えば、土砂災害の現場を飛行して被害範囲を特定したり、流出した土砂の規模を把握したり、と、3Dマッピングの技術も連動した防災でのドローン活用は、近年の豪雨災害の折にニュース報道などでも紹介されています。こうした情報の取扱いは、専門家が具体的な目的をもってドローンを活用し、適切な情報を収集しているという点で、仕組みとしてかなり完成された活用方法であると言えるでしょう。
一方で、一般的なドローンの防災運用は、まだまだドローンが上空から映像を捉えるという一次情報の収集で足踏みをしている印象を受けます。たしかに高精細なカメラが、地上にいる人の表情を捉えられるほどにズームアップをする技術は驚嘆すべき技術ではあります。しかし、結局はこれも一次情報でしかないのです。下手をすれば、その映像を見ている全員が、緊急事態の兆候を見落とす危険性もあります。逆に、ドローンを適切に運航させることが主要任務であるドローンパイロットであっても、ドローンが捉えた映像の中に異変を感じ取ったら、それは共有されるべきです。そうした異変を察知した時の情報は、一次情報ではなく、活動情報となるべきです。
しかし、活動情報は、一次情報として把握した視覚情報に言葉を付加していくことによって生み出されるものですから、発信する者の情報を生み出す技術によってその価値は大きく変化します。今回は、コラム第3話でご案内した「情報を味方に」からもう一歩踏み込んだ、情報技術について考えてまいりましょう。
活動情報の品質
緊急事態対処の国際標準ISO22320では、活動情報の品質が定義されています(要求事項5.3付属書B項目2)。
様々な想定外、混乱、資源不足が入り混じる災害発生時において、このような品質要求に十全に応えられる活動情報を作り出すことは、並大抵の努力や技術ではなし得ないことかもしれません。しかし、こうした品質基準が定義されている以上、少しでもそれに近づける努力はするべきでしょう。
このような内容もさることながら、活動情報は現場で実際に活用できるものでなければ意味がありません。米軍などでは、活動情報につながるような報告を促す手法としてMETHANE(メタン)プロトコルと呼ばれる手法が採用されています。METHANEそれぞれが必要な情報項目の頭文字となっており、7つの情報で構成されています。ここからはその内容をひもときつつ、活動情報の何たるかを考えていきます。
最初に注目すべき点は、コラム第3話でご案内した情報通信の作法と同様に、通信の開始にあってはまず、名乗り、続いて現在位置を告げる原則が徹底されています。災害対応における絶対的なルール「自分自身の安全が最優先」という観点から、まずは通信の作法(名乗りと現在地)が何より優先されます。以降の情報も、通信の途絶の可能性に配慮し、事実として伝えるべき情報が順番に並んでいます。
既にご案内差し上げているとおり、ドローンを防災に活用する場合、なによりも期待されるのは、手軽に上空から俯瞰的な視点がえられる点です。METHANEプロトコルの中でも、H(継続する危険性)や、A(到達経路)に関する情報は、現地にいる人員以上に広域で収集することが可能となります。
例えば、とある病院で屋上に多くの人があがって助けを求めている状況をドローンからの映像で発見したとします。このような場合、どのようにMETHANEを構成すれば良いのでしょうか。ここで注意をしないといけないのは、E(現在位置)は、その病院の場所ではなく、通信を実施するドローンパイロットあるいは通信員(ここではまとめてドローンパイロットとします)の現在位置であるという点です。重ね重ねとなりますが、冒頭のMとEは、ドローンパイロットの安全を確保する意味合いもありますので、病院の位置を伝えても意味がありません。病院の位置については、続くT(発生した具体的な緊急事態)の部分で伝える内容となります。ただし、病院のようなランドマークの場合、具体的な住所をつたえなくても「〇〇病院で緊急事態が発生、屋上で複数人が助けを求めている様子が確認できる」と言えば、その病院の場所は地図などを用いて把握することが可能になるでしょう。ただし、最近のドローンに搭載しているカメラでは被写体の座標も情報として得ることが可能な場合がありますので、その際には座標を伝えることで、土地勘のない人員であっても病院の所在地を素早く把握することが可能になるかもしれません。あるいは、市立と民間の病院で似たような名称の病院が存在する場合には、誤認を防ぐことができるでしょう。
続く、H(継続する危険性)、A(到達経路)では、前述の通りドローンの能力が最大限発揮されるべきポイントとなります。当該病院からもう少し広い視点をもって周囲を観察してみましょう。上空からの映像では、病院の中を正確に把握することは困難です。一方で、例えば、周辺で火災が発生していないか、家屋や電信柱の倒壊によって遮断されている道路はないか、冠水している地点はないか、といったことを上空から観察することはドローンの上空からの視点を最大限に活かした情報収集であると言えます。そうしたH(継続する危険性)やA(到達経路)に関する情報は、いかに病院の屋上から見渡しても容易に把握できないことがあります。
N(負傷者の数)や、E(対応チーム)に関する情報は、流石にドローンだけで把握することは困難かもしれません。ここで重要になるのが、事前の備えとしての教育やすり合わせです。災害時の映像として、ドローンが撮影する映像は、ニュース速報で流れるヘリコプターからの報道映像に比べてまだまだ一般的ではありません。ドローンのカメラの性能を知らなければ、報道映像と同じような感覚で、屋上にシーツを使って「SOS」や「HELP」の文字を大きく描くことしかできないかもしれません。
しかしながら、本コラムの読者の皆さまであれば十分にご案内の通り、ドローンのカメラはものすごく優秀なんです。そのことをドローンの飛行計画のある地域の病院の関係者に周知しておけばどうでしょうか。事前の打合せがしっかりできていれば、シーツでSOSを描くよりも前に、A3のコピー用紙に、「要搬送3名、医療用酸素不足、発電機燃料残2日」などと大書しておいてもらえれば、ドローンの目を通して「読む」ことが可能です。現場と連携した事前の備えによって、ドローンが生み出す活動情報の可能性は更に広がっていくことでしょう。
150文字の作文
最後に、こうして生み出すことができた活動情報を簡潔に伝える準備をしてみましょう。それが150文字の作文です。マーケティングや営業企画の世界では「エレベータースピーチ」というものがありますね。普段お目にかかれないような偉い人とたまたまエレベーターで乗り合わせた好機を活かす心持で、相手がエレベーターから降りる前に意思を簡潔に伝えるというプレゼンテーションスキルで、持ち時間は30秒とされています。
災害時も、情報伝達は正確であるべきですが、あまりだらだらと話をされては、それだけ情報回線の独占状態が続き、全体の情報流通に支障を来す危険性があります。かといって、あまりに早口でも、書きとることはおろか、満足に聞き取ることもできないかもしれません。聞き直しによる重複もまた、情報回線の浪費につながります。
一方で、NHKのアナウンサーは1分間に300~350文字を話すと言います。30秒はその半分ですから、150文字。これが、150文字の作文の根拠となります。また、災害時の情報伝達手段の1つであるダイヤル171(災害用伝言ダイヤル)の1回の録音時間も30秒です。30秒、かつ、150文字このスペックで報告ができるようになれば、それは災害時の情報通信において貴重なスキルとなることでしょう。ついでにエレベータースピーチも上達して、普段使いでも重宝するかもしれません。
ビジネス、防災の双方で役立つ150文字の作文、頭の体操かたがた、ちょっと気にしてみてはいかがでしょうか。
国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員
佐伯 潤
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