04 防災資機材の話「水」

2022年 08月15日

3つの3の法則

 皆さんは、ご自宅や職場、あるいはカバンの中にどのような防災資機材(防災グッズ)を備えておられるでしょうか。このコラムでは、様々な防災資機材をひとつひとつ紐解いてその役割について学び、本当の意味で活用できるようになっていこうと考えています。最初は「水」についてです。首相官邸をはじめとした行政機関から、防災にまつわる書籍にいたるまで、水は防災備蓄として欠かせない存在として紹介されています。飲料水の備蓄の目安は3~7日分、1人1日3リットルとされています。ところで水ってどれほど重要なのでしょうか?1日3リットルってどんな基準なのでしょうか?

 命をつなぐための目安として、3つの3の法則というのがあります。それは、酸素は3分、水は3日、食糧は3週の間、枯渇すると、死のリスクが非常に高くなる時間を示しています。水は3日とされていますが、その時点では重度の脱水症に陥っていて、自分から動くこともままならない状態になっていることでしょう。人は水なしで生きていけないのです。年齢や環境などに影響されますが、人体の構成のうち成人男性であれば約60%、成人女性は約50%が水分と言われています。その水分は、血液の成分となるだけでなく、体内で様々な物質を溶かしたり化学反応を引き起こしたりするほか、栄養素や老廃物を運搬するのにも用いられています。酸素を体内に運ぶ役割を担う血液を大量に失うと命を失う危険があるのと同様に、水分を大量に失うと体の諸要素が機能しなくなり死に至ります。

 

普段、3リットルの水分を摂っていますか

 飲料水の備蓄目安が1日3リットルであることは、本コラムで紹介せずとも既にご存知であった方は少なくない事でしょう。ところで、皆さんは平時の生活において、毎日3リットルも水を飲んでいますか。「ビールだけで5リットルはいける」なんていう強者なお父さんがたまにいらっしゃいますが、アルコールやカフェインは利尿作用がありますし、災害時に夜な夜な酒盛りというわけにもまいりませんので、それは一旦脇におきます。
 健康な人において、一日で摂取する水分と、尿や便、発汗や呼吸などで排出する水分は、ほぼ同量で、環境や個人差があるものの、その量は、2.5~3リットルです。その上で、もう一度おうかがいします。毎日3リットルも水を飲んでいますか。多くの方は、そこまで大量の水分を「飲んで」いないはずです。標準的な人であれば、一日に必要な水分の半分強を「飲み」、残りの半分弱は「食べて」いるからです。

 例えば、お米を炊くために炊飯器に水を注ぎますが、炊きあがったご飯は粥にしない限り、ふっくらしていたとしてもベチャベチャではありませんね。炊飯に用いた水分の多くは米粒に吸収されているからです。みずみずしい野菜にも多くの水分が含まれていますし、みそ汁などは殆どが水分です。このようにして私たちは一日に必要な水分の半分近くを、食事をすることによって摂取しているのです。
 ほんの前までは、備蓄食といえば乾パン、ビスケットが殆どでした。ローマ時代に生まれた乾パンは、極限まで水分をなくすことによって、軽く、保存がきき、凍結しないという利点を兼ね備えた保存食です。確かに1日3食乾パンで暮らすとなれば、食品からの水分摂取が見込めませんから、気合を入れて大量の水を飲む必要があります。しかし、缶詰からレトルトまで普通に近い献立が備蓄食となっている現代においては、必ずしも無理して3リットルの水を飲む必要は無いと言えるでしょう。
 勿論、災害の影響で断水が発生すれば、飲料水としてだけでなく、歯磨きや洗面など様々なシーンで水が必要な状況が生じます。また、アルファ化米やカップ麺などの食事でも水分を摂取することができますが、調理のために飲料水が必要となります。そういった観点から、1日3リットルを目安として水を備蓄することは、多すぎるということはありませんので、積極的な備蓄を心掛けて頂きたいものです。

 

脱水症に真水は危険

 寝食を忘れて没頭する、といった言い回しがあります。人は熱中すると時が経つのも忘れて没頭してしまうことがあります。災害に関連して、避難や人助け、後片付けなどに奔走していると、水分摂取をうっかり忘れてしまって、気づけば脱水症の気配が、なんてことは災害現場では珍しくありません。
 脱水症かな?となった場合の対処法で有効なのは、ORT(経口補水療法:Oral Rehydration Therapy)です。水とカリウムなどの電解質を、点滴による輸液ではなく、飲んで摂取するという手軽で確実な手法です。ざっくり言えば、経口補水液と呼ばれる、適量の塩と砂糖をまぜた水を飲め、という話です。(註:塩と砂糖だけではカリウムが含まれないために厳密な意味での経口補水液には不足します)
塩と砂糖を混ぜた水は、世辞にもおいしいとは言えませんが、わが日本には、大塚製薬のOS-1という素晴らしい経口補水液の製品がありますので、こちらを飲みましょう。なお、大塚製薬のオンラインショップでは、パウダータイプのOS-1が販売されています。水に溶かせばすぐに使えますし、なにより賞味期限が5年とペットボトルタイプよりもはるかに長い点が魅力です。
 1971年、東パキスタン(現在のバングラディッシュ)の内戦による難民キャンプで猛威を振るったコレラ対策として多くの人を救ったORTは、20世紀最大の医学上の進歩とも言われていますが、なぜ、経口補水液なのでしょうか、水ではいけないんですか。そうなんです、脱水症の時に真水を摂取すると、脱水症を悪化させるおそれがあるのです。

 前述の通り、人間の体の半分以上は水分ですが、その水分は真水ではありません。電解質などが溶解した体液なのです。そうした体液が減少している脱水症の状態で、電解質を含まない真水を摂取してしまうと、体液の濃度が希釈されてしまいます。すると人体では、体液を正常に機能させるべく水分を尿として排泄し、体液濃度を維持しようとするメカニズムがはたらきます。この尿排泄によって摂取した真水以上の水分を排出してしまうことによって、脱水症が悪化する危険があるのです。
 水とともに、OS-1パウダー、ぜひ備蓄しておきたいアイテムです。

 

自分自身の安全のために、脱水症を回避

 ここまで水に関連した危険である脱水症とその対処についてご案内してきましたが、本コラムの読者の皆さんでしたら、もうご存知のとおり、防災における絶対的なルールは「自分自身の安全が最優先」でした。脱水症への対処も大切ですが、皆さん自身はそもそも脱水症にならないことが、安全であり、重要なポイントとなります。
 特に炎天下での活動は脱水症のリスクが高まります。そうした平時の活動から給水休憩をサイクルに取り組むのは効果的な手法のひとつです。図で示している例は、炎天下でのがれき撤去作業を想定していますが、活動時間15分ごとに10分の休憩を設定します。この休憩ごとに水分の摂取を徹底します。特に環境が過酷な場合は、メンバーの一人をタイムキーパー役として活動から除外します。タイムキーパーをローテーションさせることで、全メンバーが一定時間ごとに35分の休憩でしっかりと休息をとることが可能になります。

 こうした作業ローテーションを常態化することで、平時から脱水症(熱中症)予防が可能となる上に、災害時でも水分摂取に関する安全を確保した活動が実現します。
 もう一つ、日常的にみなさん自身が自分の水分状態をチェックする方法をご紹介しましょう。それは、尿の観察です。脱水状態が進行するにつれて、尿として排泄される水分が減少し、老廃物の割合が上昇します。それに従い、尿の色が濃くなっていくという現象が生じます。

 普段から透明に近い尿が出ていれば、日常生活のなかでの水分摂取は安定していると言えます。逆に、普段から尿の色が濃い傾向にあるようでしたら、生活態度として水分の摂取が不足している可能性があります。災害時は、状況によって思うように水分が手に入らない事態も想定されます。常日頃から脱水傾向にある人には過酷な環境です。尿の様子を観察し、水分が十分な状態を維持する生活リズムを身につける。さりげない工夫ですが、日常から取り組める大切な防災訓練です。

 

 


国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員     
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員 
佐伯 潤   

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