43 仲間を助ける毛布搬送

2024年 04月01日

要救助者を搬送する技術

 災害が発生すると、要救助者が発生することは誰しもが想像できるところかと思いますが、要救助者への対応として重要になるのが、応急手当と並んで、搬送です。先の第42話のコラムでは、無暗に動かしてはいけない負傷のケースをご案内しましたが、今回は急いで搬送しないといけない場合の担架搬送についてご紹介していきます。
 担架とは、2本の長い棒にキャンバス地などのしっかりとした布地が張られた搬送資材であることはご案内の通りでしょう。駅のホームなどで縦長の木箱などに収納されているのもこのタイプです。現代では、この一般的な担架のほかに、スポーツの大会やヘリコプターでの救助の場面などで見られるストレッチャーボードや、バックボードと呼ばれる長い橇のような資材も存在します。いずれも、要救助者を寝た状態で搬送する資材です。
 担架搬送で重要なことは、まずは十分な人数で搬送するという点です。本コラムの記念すべき第1話でご案内差し上げた通り、災害対応において最も重要なことは、自分の安全を最優先に確保することです。その詳しい理由は第1話を参照して頂くとして、簡単におさらいをすれば、要はミイラ取りがミイラになってはいけないし、そうなると、救助をする人たちの手間も倍増して、周囲に大変な負担を強いることになる、というのが、自分自身の安全を確保するポイントとなります。
 これまた第6話でご案内したことですが、災害時の困った負傷の代表格が、致死性は低いのに、周りに世話を焼かせて迷惑この上ない、腰痛です。これは重要なポイントなので再度ふりかえりますと、厚生労働省は重い物を取りまわす作業時の腰痛予防として、男性であれば体重の40%、女性であれば24%を持ち上げ重量の上限目安として提示しています。
 担架搬送でも、気を付けて頂きたいのが腰痛対策です。担架搬送の訓練でよく見かけるエラーに、担架を二人で搬送しようとしている状況があります。仮に90kgの要救助者を担架で運ぶとして、これを日本人の平均体重である、65kgの男性2名が担当したとしたらどうでしょうか。65kgの40%は約26kgですから、男性2人が対応しようとすると、90kgの要救助者は、腰痛予防の制限荷重の2倍近い重量を持ち上げなくてはなりません。これぞまさにミイラ取りがミイラになる予兆と言えるでしょう。
 ちなみに、とてつもない状況が差し迫っていない場合においては、救急隊員は、救急車に乗っている人員3名全員で担架搬送を実施します。また、陸上自衛隊での一般的な担架搬送は、4か所の長棒の先端をそれぞれ1名が把持して、4名で実施します。プロはきっちりと安全の確保をとっているわけです。

 さて、要救助者の搬送に欠かせない担架ですが、そもそも担架が傍に無い、あるいは、足りないといった場合には、毛布やブルーシートといった代替的なアイテムで担架搬送を実施する場合があります。皆さまも防災訓練などで体験されたことはあるかもしれません。ただ、この毛布搬送も、見様見真似では運ばれる方も色々と苦労が絶えない代物なので、今回は少しテクニカルなお話しをしてまいりたいと考えています。

 

毛布をセットする

 まずは、資材の確認から。毛布搬送に用いる敷物は、当然丈夫でなくてはなりません。また、理由は後述しますが、伸縮性のないものを選びましょう。たまに毛布の中にはストレッチが利いているかのように、伸び縮みするものがありますが、あれはいただけません。また、毛布的な資材として、コンパクトに折りたたまれた金色や銀色のエマージェンシーブランケットがあります。オンラインショッピングの口上には、搬送にも、といった説明書きがあるものもありますが、筆者が何種類か試してみましたが、要救助者を載せて持ち上げたとたんにお尻のあたりから綺麗に裂けてしまって使い物になりませんでした。ブランケットと言っても、あれは毛布ではないのです。
 さて、適切な資材が用意できたら、要救助者を仰向けに寝かせてその下に毛布などの敷物を敷く必要があります。これはログロール(丸太転がし)と呼ばれる方法で、要救助者を90度に回転させて、身体の下に敷物を送り込みます。ログロールは実施する者に対して手前に引き起こすように実施し、膝立ちした太もも部分でしっかりと支え、要救助者が勢い余ってビタンとうつぶせに倒れないように配慮してください。押し込む側の毛布を折り畳み、その畳み具合で毛布の中心線がわかるようにしておくと、要救助者の身体の中心と、毛布の中心を合わせやすくなります。

 片側を押し込んだら、反対側から再びログロールを実施して、押し込んだ毛布を反対側に広げれば、毛布の上に要救助者を寝かせることができます。

 

持上げのポイント

 持上げる際には、毛布の両端を丸めて握りを作るのですが、この毛布の両端は、少し引っ張るようにしながら硬く巻きつつ、要救助者に密接するまで巻きます。持ち上げる人員は片側3名の合計6名で実施するのが基本です。握る箇所は、要救助者の頭、肩、腰、ふくらはぎと重さがかかる場所を握ります。要救助者を挟んで対面の人員と同じ位置を握ることで、バランスがとりやすくなります。また、両隣の人とは腕を交差して握ると、万が一、片方の人員が手を離してしまっても、極端にバランスが崩れることはありません。

 この要救助者に密着させるまで毛布を巻き上げるポイントと、重さのかかる箇所を握ること、それに、前節でご案内した伸縮性のない資材を選ぶことが、要救助者の安全に大きく影響します。これらの3項目が守られていないと、毛布で要救助者を持ち上げた際に、要救助者の身体はお尻を中心として平仮名の「へ」をさかさまにしたような形に曲がってしまいます。これが案外苦しい姿勢なのです。ましてや、内臓にダメージを受けて内出血をしている場合などは、要救助者の自重で損傷した内蔵が圧迫されて、助けているはずが、具合を悪くしようと虐めているような状況になってしまいます。要救助者の身体が一直線に保たれていることを確認する必要があります。
 要救助者を持ち上げる際には、6人の息を揃える必要がありますから、「いち、にの、さん」といった掛け声をするのが一般的ですが、その前にもう一つ「ルックアップ」とか「上を見よ」といった掛け声をかけてください。要救助者の周囲でしゃがんだ状態から、毛布を掴んで立ち上るわけですから、ここでも搬送をする人員は腰痛のケアが欠かせません。「上を見よ」という掛け声とともに、上を向くことによって、背骨がまっすぐに伸び、太ももからお尻にかけての強力な脚の筋肉を活用して立ち上ることができます。
 何人かがうっかり持上げの瞬間に腰をやってしまって、崩れ落ちるようにして要救助者に体当たりをかます様子は、見たいものではありませんね。

 

搬送時の注意事項

 搬送する際には、要救助者の足元を先頭とするのが基本です。進む方向が見えない中で、頭から突っ込んでいくというのは、要救助者にとっては不安なものです。また、万が一何かに当たってしまった場合にも、要救助者をお寺の鐘の付き棒のように扱わずに済みます。ただし、階段や坂道を上る際には、頭側を先頭にする配慮も忘れずに。頭が下がっていると、運ばれる側としては、それは不安なものです。
 また、搬送訓練を拝見していると、一生懸命取り組むのは良いのですが、黙々と搬送を実施している様子を見かけることがあります。これはこれで要救助者にとっては怖い。突然方向や角度が変わるというのは、不安になるものです。また、どこまで運ばれるか分からないままで居続けるのも心配がふくらみます。ポイントとしては、例えば、要救助者の右肩部分を担当する人員をリーダーとして、要救助者の上げ下げ、方向転換の指示出し役とする一方で、左肩部分を担当する人員を声かけ役として、要救助者へ声をかけ続ける役割を担うといったフォーメーションが取れるのが理想です。「大丈夫だからね」「これから階段を下りますよ」「あと少しで救護所に着きますよ」といったコミュニケーションを取ることが出来れば、要救助者も安心できます。
 ちなみに、毛布で搬送するという作業はかなりハードです。要救助者にある程度の重さがある場合、30メートル進むのも一苦労です。搬送している間に汗ばんだ手のひらで握った箇所がずれてくるかもしれません。目的地へ搬送するまで死ぬ気になって運ぶのではなく、適宜、いったん要救助者を下ろして、小休止を取るといった工夫が、結果的には要救助者の安全にもつながります。

 さて、今回は毛布等を利用した搬送法の技術面についてご案内しましたが、防災の基本にたちかえって、訓練は欠かせません。読んで理解するだけでなく、実際に体験してみることが重要です。訓練する際には、持ち上げる各員に無理が無いか、また、持ち上げた要救助者のお尻が沈み込んでいないかの確認など、観察する役割を配置することを忘れずに。

 

 

 

国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員     
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員 
佐伯 潤 

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