08 おしゃれも防災も足元から
2022年 10月15日
意外な弱点、足元
今回は、案外見落とされがち、けれども恐ろしく重要な防災グッズ、靴のお話しです。防災グッズは、揃えるだけではだめ、その使い方をしっかり訓練しておくことが重要、という話はこれまでもご案内してきたところです。さて、私たちが物心ついたころから履いている靴、この靴に関する訓練は受けたことありますか。小さい頃に靴紐の結び方の練習をしたことはあっても、靴の履き方の訓練となると、定かでない方も少なくないのではないでしょうか。
災害時には避難、物資の運搬、誰かのお手伝いなど、すべきことが色々とあります。これらの活動に共通するのが移動です。そして、移動の基本に足元の安全があります。すなわち、正しい靴を選び、正しく履くということですが、日本人は案外とこの靴との付き合いが苦手なのです。そこには日本の文化的背景が原因にあります。
「それはそうじゃ、つい150、60年前の江戸時代までは、草履、足袋の文化。靴などという異人の履物は履き慣れないのが道理じゃ」と、お侍さん。確かにそうなんですが、そうではござらん、そうではないのでござるよ。
日本の家には玄関があり、おおよそ大抵の家には、いまだに土間の名残があります。つまり、家に上がるときには履物を脱ぎます。世界中で、一生の間に靴を脱いだり履いたりする回数が一番多いのは日本人かもしれません。その脱ぎ履きの際にいちいち靴紐を結び直すのはなかなかのストレスです。多くの方が紐靴であっても靴を履くたびに靴紐を結ぶようなことはしていないのではないでしょうか。日本人の靴事情、かなりの割合でかかと部分がゆるい履き方をしているケースが目立ちます。
今回は、いざという時にしっかりと活動できるようにするための基本ツール、靴について考えてまいりましょう。
靴の軽さは利点とは限らない
まずは靴の選び方です。紐靴が基本となります。くるぶしよりも上までをしっかりと固定してくれる靴がベターです。この後説明しますが、靴紐はしっかりと靴を足にフィットさせるためには欠かせないパーツです。ビーチサンダルやスリッパのような突っかけるだけの履物は論外として、たまに豪雨時の避難で、魚屋さんが履くようなゴム長靴を履いている方を見受けますが、あれもまたNGです。たしかに足元が濡れると気持ち悪いですし、足を長期間濡れた状態にしておくと皮膚病などの原因にもなります。だから、足を濡らしたくない気持ちはよく分かります。しかし、ゴム長靴は、作業用の靴であって、移動用の靴ではないのです。ゴム長靴を履くときは、足を差し込むだけです。これではかかとがしっかりと固定されません。その点で脱げやすく、歩きづらいという点では、ビーチサンダルやスリッパと同じカテゴリに入る履物です。
足裏をしっかり保護するという点で、あまりに靴底がすり減っている靴もおすすめできません。靴底がすり減っている分だけ愛着のある靴かもしれませんが、縫い目がほつれていたりしませんか。靴底の接着部分がはがれはじめていませんか。靴は頑丈で信頼のおけるアイテムである必要があります。
運動靴では軽さがアピールポイントになっている場合がありますが、実際のところ靴の軽さというのは、あなたが普段の生活で100分の1秒のタイムを競う事が無い限り、メリットとは言えません。むしろデメリットとなる可能性があります。例えば革靴に着目すれば、本体部分は革、内側に布が使われ、靴底にはゴムが使われています。この構成は靴ごとに大差がありません。その上で、他のものに比べて軽い靴というのは、どこかの部分で通常は3枚の革を重ねるところが1枚になっているなど、部品が省略されています。あるいは、靴底のゴムにスポンジのような気泡を含ませて軽くしていたりします。つまり、それだけ強度を犠牲にして軽さを出していることが殆どです。
一方で、腰痛の回でもお話しした通り、お尻から太ももにかけての筋肉は人間が備える筋肉のなかでも最も大きく、パワーの出る部位です。そんな強力な筋肉が持ち上げる足で数十グラム重さが変わったところで、運動能力に大きな影響が出るとは考えられません。
また、サイズはしっかりと足の大きさにフィットした靴を選んでいるでしょうか。一般的に靴には捨て寸と呼ばれる寸法外の余裕が1センチ前後あります。あるシューフィッターさんのお話しによると、厳密に測定をすると、大概の人が実際の理想的なサイズよりも0.5~1センチ程度大きな靴を選んでいることに驚くそうです。靴を選ぶ際に、たいていの人は履いた感触でその靴がフィットしているかどうかを確認しているのではないでしょうか。選んだ靴が、もし中敷きが外せるようであれば、中敷きを外して、それを足に合わせてみてください。かかとを起点にして中敷きを当ててみて、つま先部分で中敷きが大きくはみ出すようであれば、サイズを小さくしたほうが案外フィットするものです。
履き方と紐の締め方
次に、靴の理想的な履き方をご案内していきましょう。まず、靴に足を差し入れたら、数度かかとを地面に打ちつけて、かかとをしっかりとフィットさせます。この時に靴のかかと部分が、かかとを包み込むような感覚が得られない場合には、その靴はあなたの足よりも幅広のためにきちんとフィットしない靴かもしれません。
次に、靴紐を締めていきますが、先端部から、足の甲の最も高い部分まで(靴によって差はありますが、だいたい先端から3つ目の穴あたりまで該当します)はサイドから足をしっかりホールドするようなイメージで締めます。あまり力任せに締めてしまうと血流が悪くなって足が痛くなることもありますので、適度に調整します。一番先端の部分は小指1本が通るくらいの余裕を持たせておくと、履いている間に多少調整されてきます。足は体の中でそれほど大きな部分ではありません。足首にいたっては、あの細い部分で全体重を支えているわけですから、かなりの負担となります。歩いている時に足や足首、あるいは膝にかかる衝撃をやわらげるために、足には進行方向に向かって土踏まずを中心とした弓なり構造になっています。同様に、足の親指の付け根から小指の付け根にかけても、同様に進行方向に直行する弓なり構造があって、衝撃を吸収しています。
靴の左右からのホールドが弱いと、このアーチ構造がつぶれやすくなり、歩いていても疲れやすくなってしまいます。そのために親指の付け根と小指の付け根をぎゅっと掴むようなイメージで靴紐を締めてあげると、足の形が補正され、かつ、靴の中での足のずれが減少します。
ここで靴紐の通し方にも工夫ができます。靴紐の代表的な通し方にオーバーラップとアンダーラップがあります。靴紐を紐穴の上から通して下から抜くのがオーバーラップ、逆に下から上へ通すのがアンダーラップです。オーバーラップは、一つの穴ずつ締めないと締め付けられない反面、緩みづらい通し方です。一方、アンダーラップは締めやすく、緩ませやすい通し方です。
ちなみに、筆者は8インチブーツ(半長靴)という足首の上まで保護するブーツをよく着用していますが、つま先から足首の手前までの4つの穴はオーバーラップ、それより上の部分はアンダーラップ、という通し方をしています。これにより、足の部分はしっかり締められ、かつ、足首部分を締め込んでいる間に緩んでしまう事が防げます。加えて足首周りはアンダーラップで緩みやすいので、ブーツを脱ぐときにも、比較的容易に靴紐を緩めてブーツの口をがばっと開くことが可能になっています。
踏抜き防止板の落とし穴
地震が発生すると、ガラスが割れる事があります。特にコップなどは底部からスパイク状に側面部が残り、凶器と化すことがあります。また、揺れによって床板が外れたものが反転し、クギが突き出していることがあります。こうした危険に備えて、安全靴などにはそもそも靴底が硬質のゴムや、特殊な樹脂層を挟むことで踏抜き防止機能があるものがあります。そうでない靴であっても、防災グッズには踏抜き防止中敷きといって、金属板の入った中敷きがあります。要するにこれを中敷きとして靴の中に入れれば、万が一危険物を踏んでしまっても踏抜きの危険が低減できるというアイテムです。
この踏抜き防止中敷きを防災グッズとして用意されることを検討するのであれば、ぜひしっかりと訓練を怠らないようにしていただきたいところです。まず、踏抜き防止中敷きは、厚さが2ミリ前後あるものが一般的です。当然中敷きを入れれば靴の中はその分狭くなります。いつも通りの靴紐の状態では窮屈になって足が痛くなる可能性があります。また、踏抜き防止中敷きは金属板が入っているため、靴底の柔軟性が低下します。違和感だけでなく、長距離を歩くと足の痛みの原因となります。踏抜き防止中敷きを装着した場合には、移動可能距離がいつもより短くなっていることを計算にいれて行動計画を立てる必要があります。
安全のために踏抜き防止中敷きを備えるのは1つの手段には違いありませんが、危険な場所は十分に用心する、あるいは、回避して別ルートを検討する、危険なものをまずは取り除く、といった対処も検討することができるでしょう。暗闇で危険物が見つけられるようにヘッドライトなどの照明器具を用意しておくことも重要です。
災害時でなくても、あらゆる行動の基本である移動。その移動を支えるのが足をサポートする靴です。災害への備えとして、皆さんの靴、靴紐の通し方、履き方から再点検してみませんか。
国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員
佐伯 潤
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