19 防災大声コンテスト

2023年 04月01日

大声は体に備わった防災能力

 皆さん最近大声出しましたか? 3人の子どものいる筆者は、どちらかというと昭和の親父タイプなので、子どもを叱るときは大きな声が飛び出します。

 この大声が、捜索・救助訓練でも大活躍です。例えば、ボイストリアージという手法があって、多くの負傷者がいる場所で、最初に大声を張り上げます。ライトをかざしながら「レスキューの佐伯です!救助に来ました!歩ける方はここまで集まってください!」と大声で呼び掛けるのです。
 冒頭から余談で申し訳ないのですが、歩ける負傷者というのは、意識もはっきりしているわけですから、たとえ腕を骨折していたとしても一旦は優先度の低い負傷者ということになります。緊急搬送が必要な重症者は、歩けないし、声が出せたとしてもささやき程度の声しか出ないこともあります。そうした重症者をいち早く見つけ出そうとして、助けを求める小さな声を拾う時に、「おい、見てくれよこの腕、すげー痛いんだよ、早くなんとかしてくれよ」と叫び続ける元気な負傷者は、なかなかに邪魔な存在です。それゆえに、最初に歩ける負傷者には災害現場から退場してもらい、声にならない声を求めて捜索を始めるわけです。
 ところで皆さんは最近大声出しましたか?

 

 

大声の効能

 「前よし!後ろよし!右よし!左よし!上空よし!」おなじみのドローン起動前の安全確認ですが、大声で確認をしているでしょうか。こうした安全確認で大声を用いるのには様々な理由があります。まず声に出して確認をすることで、抜けを防ぐことができます。「前よし!後ろよし!上空よし!」では、発声に違和感があります。これで、左右の確認をうっかり怠ることを防いでいます。
 同時に大声を出すことによって、近くの仲間にも、周囲の安全を伝達することができます。もしこれが災害の現場でドローンを活用することとなった場合、非常に重要な意味合いを持ちます。災害現場での活動では、危険を回避し、万が一の事態が発生しても対処できるように、単独行動は原則として禁止されます。最低でもバディといって2人一組で活動をします。
 例えば、災害現場で火災を発見して消火活動に移行した場合、バディは縦に隊列を取り、先頭の者は消火器を抱えてしっかりと前方の火炎を見据えています。刻一刻と状況が変化する火災で、火炎から目を離すことは命取りになりかねません。そのため、先頭の者は前だけを見ています。一方で、後方の者は、先頭の者の肩やベルトを掴みつつ、退路を含めた後方の安全確認に専念します。こうすることによって、全方位の安全を確認しながら前進をするのです。


 このような状況下でのコミュニケーションツールは大声です。先頭の者が「前方確認よし!」と言えば、続いて後方の者が「後方確認よし!」と応えます。続いて先頭の者が「前進する、いちっ、にっ、いちっ、にっ…」と音頭を取り、後方確認を継続する後方の者がつまづいて転倒しないように、一定のペースを保って前進します。後方の者が、自分たちと退路の間に別の火炎を見つけたら「後方に火炎、退避!退避!」といって一旦撤収をします。さて、このやりとりがつぶやくような小声でなされたとしたら、このバディは安全に活動できるでしょうか。
 ドローンパイロットも同様です。ドローンパイロットはドローンの操縦に集中をします。ドローンの安全には責任を持つ一方で、本人の周辺の危険に気を払う余裕がないかもしれません。そのために、補助者は一緒になってドローンを眺めているのではなく、絶えず周囲を警戒する必要があります。もしパイロットたちに危険が迫るような事態が起きれば、補助者は大声でパイロットにそれを伝える必要がありますし、場合によってドローン自体はリターントゥホームの自動運転に切り替えて、パイロットたちは安全のための避難行動をとる必要があるかもしれません。
 災害の現場は、周辺で緊急車両のサイレンが鳴り響くなど、ことのほか騒音で埋め尽くされている場合も珍しくありません。大声が出せないというのは、意外と深刻なコミュニケーションリスクとなる可能性をはらんでいます。

 

 

大声でイニシアチブを取る

 「お客様に申し上げます!先ほど帰宅したいというお申し出を頂きましたが、現在建物周辺は大変に混雑しており、非常に危険な状態です。今しばらくこちらで待機いただきますようお願いいたします!」とあるビルの厚い壁で囲まれた非常用発電機室で、普段はお客様の接客にあたる女性が大声を上げています。
 これは、筆者が指導をした、とある商業施設での防災訓練での風景です。災害が発生し、多くのお客様が滞留している中、不安や不満の声が上がった際に、どのように対応するかを学習する訓練です。
 アメリカでFBIやCIAなどの法執行機関を指導するある指導教官は「自然界においては、一番大きな音を出すものが、たいていは勝利する」と言います。この場合の大きな音とは、銃声も含まれており、銃声を聞いた一般市民がフリーズ状態に陥ってしまう状況を示しています。しかし、この理論は銃声にかぎった話ではありません。多くの人が集まってざわざわしている状況下では、一番大きな声を出した人が強いリーダーシップを取ることができます。前述の訓練は、お客様に何を伝えるか、という情報処理も課題の一部に含まれていましたが、     

 一番の目的は、しっかりとした大声を出せるかどうかを試すことにありました。
別のお話しをご紹介しましょう。筆者は、小学校や中学校に出向いて子ども達に防災教育を実施することもあります。そうした授業を終えた時に、よく小学校や中学校の先生方から言われることがあります。「普段から騒々しい子どもたちで、特に外部から先生がいらっしゃると、はしゃいでしまって、もっとうるさくなるところなのに、今日は子どもたちがしっかりと先生のお話しを聞いていました」といった内容です。
 ここにも大声のからくりがあります。授業の冒頭で大声の効用について説明をします。前掲のようなバディでの行動の様子をデモンストレーションする場合もあります。建前としては、筆者らの防災教育では、子どもに発言を促すシーンが多々あるため、子どもたちに大声を出すことも防災訓練の一環であることを認知させて元気よく大声で回答することを促しています。しかし、本音の狙いは、子ども達に先駆けてインストラクターが大声を出すことで、教室という空間のイニシアチブを取りにいっているのです。これが、なかなかに効果があります。
 一旦イニシアチブを取ることができれば、そのあとは授業中に多少騒々しくなってきたとしても「はい!聞く!」という呼びかけで子ども達の集中を取り戻すことができるようになります。筆者は、これまでに様々な素晴らしいインストラクターと接する機会がありましたが、素晴らしいインストラクターの共通項の1つとして、皆さん素晴らしい大声の持ち主であったように感じます。

 

 

大声を防災能力として考える

 災害時の混乱は、被害を拡大させる主要な原因となり得ます。そのために、災害現場で立ち働く人々は、無線を駆使して、情報のやりとりを円滑にして整然とした活動が取れるように日々の備えを怠りません。それが、仲間内ではなく、周りにいる人々に対して何かを伝える必要が生じた際には、大声が何よりのツールになります。
 災害時にドローンを飛ばそうとしているときに、物見高い一般市民が弥次馬となってしまったら、危険回避のために近寄らないように静止する必要が生じるかもしれません。ここで、両腕を広げて立ち入り禁止のジェスチャーを示しても、その効果の範囲は限定的です。弥次馬の最前列の人々は、そのジェスチャーの意味合いを諒としてそれ以上の接近をやめようと思うかもしれません。しかし、弥次馬後方の人々は、ジェスチャーが見えていません。少しでも前で見てみようという好奇心からぐいぐいと前の人を押します。結果的に弥次馬が制御の利かない群集へと変わっていってしまうこともあります。視覚効果の効果範囲は、その大きさ、設置の高さに比例します。駅構内の行き先案内板は天井から吊ってありますよね、床に置いてあるわけではありません。交通整理の警察官も台や車両の上に乗ります。そうでないと多くの人から見えないからです。
 一方で、音による効果範囲は視覚効果よりも広がりの点で有利です。発言者が高い位置にあって、注意喚起のジェスチャーが組み合わされば、更に効果は高まります。そうはいっても常に適当な高台があるわけでもありませんから、一旦は大声の備えを考えた方がよさそうです。

 ただし、何も地声ばかりにたよる必要はありません。ボール紙を丸めただけのような原始的なメガホンであっても、大声を出すという意味では、とても有力な資機材となります。何よりバッテリーを必要としないのでいつまでも使えます。軽いですし、多少変形したとしても故障することはありません。メガホンは非常に優れた防災資機材だと感じているのですが、皆さんの職場には用意があるでしょうか。
 ちなみに、筆者が実施する訓練では様々な能力を定量的に評価してスコア化しています。大声も同様で、騒音計を用いて声量を計測し、評価をしています。ひとつの目安として、発生場所から5m離れた地点に騒音計を設置して、70デシベル以上を記録できれば、及第点。安定して75デシベル以上を出せる人員は、大声を出す必要のある現場の担当に適していると考えたりするわけです。大声を何度かトライするだけで、のどがかすれてその日一日は声が出なくなる、という方もいらっしゃるかもしれません。そうした方は、無理して大声を出そうとするのではなく、大声を出さなくても済むポジションを担当すれば良いのではないでしょうか。定量的な評価とは、適材適所を明確にしてチームビルディングを効率化する働きもあります。
 なお、騒音計は、スマホアプリでも様々な種類が存在しますので、簡易的なチェックにはアプリをつかってみるのも良いでしょう。ただ、筆者の経験としては、騒音計アプリは、実際の騒音計を使った場合よりも3~5デシベルほど大きめに捉える傾向があるような印象があります。
 避難訓練や初期消火訓練など、様々な防災訓練を社内で企画することもあるかもしれません。訓練の冒頭で、自分が、あるいは、仲間がどれくらい大声で呼び掛けることができるか、防災大声コンテストを開催してみてはどうでしょう。

 

 

 

国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員   
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員 
佐伯 潤 

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