24 セロファン越しの声では聞き取れない

2023年 06月15日

東京駅にて

 毎日多くの列車が行き来し、それに乗り降りする大勢の乗客の足音が絶えない東京駅。北海道・東北新幹線「はやぶさ」が22番線のホームに滑り込んできました。夏になればアロハシャツを着こむ清掃スタッフの皆さんが乗降口で出迎えてくださいます。時に新幹線劇場とも呼ばれる、JR東日本が運行する新幹線の清掃を担うJR東日本テクノハートTESSEIのスタッフの機敏な業務姿は、日本のおもてなし文化の象徴的存在の1つとして外国人にも人気のある光景です。

 とはいえ、この清掃スタッフさんは今回のお話しの主人公ではありません。新幹線から最後のお客さんが降車すると、ホームには業務連絡の放送が流れます。「22番、降車完了」と。
 さて、読者の皆さんは、この「22番、降車完了」を正しく読むことができるでしょうか。小学生に聞くような質問かもしれませんが、別に茶化しているわけではありません。ただ、「にじゅうにばん、こうしゃ かんりょう」は間違いなのです。
 この放送文は「ふたじゅうふたばん、こうしゃ かんりょう」と読むのが正しいのです。これは、旧帝国海軍の時代から使われている、情報伝達を間違えないための数字の読み方です。特徴的、あるいは、定まった読み方としては、1=ひと、2=ふた、7=なな、0=まる、が挙げられます。1(ひと)と7(なな)は、ともすると、いち、と、しち、となって聞き間違いが起きやすい数字です。また、2(ふた)は、に、と読むと一音の上に音が弱いので聞き落としが生じる可能性があります。
 自衛隊や警察をとりあげた映画などで、たとえば、時刻の11時半を表すのに、「ひと、ひと、さん、まる」といった言い方をしているのを聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
 ドローンの操作でも、有視界では限界がある距離を飛行する場合などには、無線機等を用いてチームメンバーが通信で連携を取ることがあります。それ以外にも、災害時には無線機を用いて情報伝達をする必要が生じます。
 今回は、そうした場合に用いる、独特な言い回しを含めた、無線通信の基本的技術についてご案内していきましょう。

 

アルファ、ブラボー

 通信を簡略化させるひとつの手段として、記号化があります。例えば、室内で要救助者を捜索する際には、グリッドマップという概念図を現場と本部で共有します。どのようなものなのか、図のグリッドマップを見ながら、読者の皆さんも、現場の様子を思い描いてみてください。ここではエッセンスをお伝えすることを目的としているので、通信の要点だけを箇条書きにします。なお、Res1(レスキュー・ワン)は救助隊の1班のコールサイン、CP(シーピー)はコマンドポストの略で指揮本部を指す一般的なコールサインです。

・CPへこちらRes1、現在位置、E4外、これより1階作業場の捜索に入る。
・退避ルートはE4およびA1に確認した。
・C3にて男性、30代発見。意識なし、呼吸あり。目立つ外傷はなし。
・B1にてナカガワフミコさん、女性、25歳発見。意識晴明だが、右足首を強くひねって歩行不能。
・D2、ガラス片多数散乱、通行危険。
・CPよりRes1へ、C3の男性の搬送にRes2、Res3が向かった。Res1はB1のナカガワフミコさんの搬送せよ。
 さて、皆さんは、この1階作業場の様子がイメージできたでしょうか。実際の内容よりも割愛された通信内容でしたが、ある程度のイメージは湧いたのではないでしょうか。
 ここで問題となるのは、先の情報に何度も登場したグリッドマップの、E4、C3、B1、D2といった記号です。B、D、E、Vや、MとNなどは発音が似ていて聞き間違えが起きやすいアルファベットです。こうした聞き取りの間違いをなくすために使用されるのが、フォネティックコードというルールです。フォネティックコードでは、アルファベットを特定の単語に置き換えて読みます。

 フォネティックコードは、一つ一つの発音が少し長くなっていますので、通信中に多少ノイズが入っても、把握しやすい、という利点もあります。
 このフォネティックコード、日本語のひらがなにも同様のものがあり、和文通話表と言います。そこでは、「朝日のあ、いろはのい、上野のう、英語のえ、大阪のお」と、フォネティックコードと同様のルールが決められています。ちなみに、この和文通話表は法的には「無線局運用規則別表第5号 通話表」と定義されており、無線局運用規則第14条第3項で、「海上移動業務又は航空移動業務の無線電話通信において固有の名称、略符号、数字、つづりの複雑な語辞等を一字ずつ区切つて送信する場合及び航空移動業務の航空交通管制に関する無線電話通信において数字を送信する場合は、別表第五号に定める通話表を使用しなければならない。」
と定められています。

 煩雑なように感じますが、一回覚えてしまえば、むしろなかなか忘れないものです。ドローンの運用にも、無線機の操作は必須の要素と言えるでしょう。専門家として通信でのミスをなくすためにも、フォネティックコードと通話表はマスターしてみたらどうでしょうか。

 

言い出しっぺが「以上」で締める

 映画やドラマあるいは、有名な芸人さんの定番ネタでも登場する無線機。基地局を必要とせず、無線の届く範囲であれば、無線機同士で通信ができる情報通信の資機材として、災害時にも重宝します。しかし、その使用に際しては、色々とコツが必要です。訓練を積んでおかないと、ぶっつけ本番で使ってもなかなかうまくいかないものです。
 まず、通信する相手と同じチャネルに合わせておく必要がありますし、同じチャネルを他の人が使っていれば混線してしまい、思うように通信ができません。通信に際しては、PTT(Push to Talk)ボタンを押さないと発話することができません。また、押した直後は機器同士が接続するために一瞬の間が空きます。PTTを押した直後から発話を始めると、最初の音を聞き落とすことにつながります。あるいは、映画やドラマで見るように無線機を口に近づけて発話すると、音が割れてしまって非常に聞き取りづらくなるために、無線機は顔から15センチ程度離さなくてはいけないのも、意外と知られていないポイントになります。
 そのような無線機ですが、慣れていないことで最も難儀するのが、通信の終わらせ方です。無線機は、例えるなら携帯電話の同報通信のように、一つのチャネルを複数で共有する使用法が一般的です。これにより、無線機を使用している仲間に一斉に通知をすることができます。一方で、チャネルを共有している仲間内で、特定の二者間で通信をする場合も少なくありません。先程の事例で言えば、CPとRes1が通信をすることがあれば、Res2がCPと通信をすることもあります。この時に、Res1とRes2が同時に言いたいことを通信してしまうと、誰が誰に対して話しているかが分からなくなってしまいます。
 そこで、無線機を用いた通信では、二者が通信を行っている間は、他の人員はその通信が終わるまで、会話に割り込んではいけないことになっています。では、他の人員はどのようにして一連の通信が終わったことを知ればよいのでしょうか。
 それが「以上」で締めくくるルールです。
 無線機通信では、言いたいことを言い終わったよ、というサインとして、発話の最後に「どうぞ」を付けます。どうぞ、あなたの番ですよ、といった具合です。どうぞをつないでキャッチボールを続けますが、通信が終わるときには「以上」で締めくくります。
 通信は、発信者の必要で開始されるものですから、発信者が通信を終了させる判断をします。具体的には次のような通信になります。

佐伯:こちら佐伯、本部大越さんどうぞ
大越:こちら本部大越、佐伯さんどうぞ
佐伯:こちら佐伯、現在位置、3階会議室前。ホソイトモヤさん、男性、40代が右脚をガラス片で負傷、応急手当はしましたが、歩行困難、救助班による搬送を求めます、どうぞ
大越:3階会議室前、ホソイトモヤさん、右脚負傷、歩行困難了解しました。救助班を送ります。待機可能ですか、どうぞ
佐伯:周囲若干のガラス散乱ありますが、通行の危険はなし。救助班到着まで佐伯待機します、どうぞ
大越:了解。救助班向かいます。どうぞ
佐伯:了解した、待機します。以上

 このように、以上で締めくくる事で、次の通信の必要のあるメンバーが、新しい通信を開始することができます。しかし、実際には、訓練を積まないとこの「以上」を忘れることが多いのです。また、形式的なやりとりというのは、慣れないうちは意外と照れくさくてうまく言えないこともあるようです。
 これまでも何度もご案内してきたとおり、「情報を制する者は災害を制す」が防災の鉄則です。いざという時に円滑な情報通信ができるように、積極的に機会を見つけて無線機に慣れておくのも、重要な災害への備えとなります。周囲を見回して目についた単語や記号を和文通話表やフォネティックコードに変換してみるのも日常的なトレーニングになりますね。脳トレだと思ってトライしてみてください。以上。

 

 


国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員   
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員 
佐伯 潤

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