25 災害時の大問題、トイレ

2023年 07月01日

入り口があれば出口もある

 災害が発生した際に重要な対応の1つが、水と食糧の確保です。人は生きていくのに水と食糧が欠かせません。ここで厄介なのが、入っていくものがあれば、出ていくものもあります。今回は、水、食糧に並んで重要な災害への備え、トイレのお話しです。
 読者の皆さんもご自宅や職場で非常用トイレの準備をなさっていることでしょう。それはどんな資機材を用意されているでしょうか。非常用トイレの最もコンパクトな組み合わせといえば、ビニル袋と薬剤です。薬剤は消臭・防臭の効果があるもののほかに、ポリマーが含まれていてし尿を固形化するものもあれば、袋自体に防臭効果が付加されているタイプの製品もあります。ともあれ、まずは専用のビニル袋と薬剤が基本のセットアップになります。

 さて、このほかに何が必要でしょう?非常用トイレの備蓄、何をあわせて準備すべきか、という点が意外と難題になります。カギは、実際の利用シーンの想定にあります。
 非常用トイレを販売しているサイトを見ると、基本セット以外によく見かけるのが、組み立て式などの簡易便座が紹介されていることがあります。他には、非常用トイレをすっぽりと覆うような簡易テントも見かけます。さて、皆さんは何を備えれば良いとお考えでしょうか。
 自宅でも、職場であっても、まずは基本セットがあれば十分であって、簡易便座等はまずは不要です。基本セットのビニル袋は、既存のトイレの便座に被せて使用するためです。便座が壊れて使えなくなったら、という心配もあるかもしれません。しかし、そのような状況の場合、そもそもその建物に留まっていて良いのか、という問題があります。安全を重視するのであれば、便座が破損するほどの被害を受けている場合は、避難所への移動を検討するのが妥当である可能性が高いですね。そして、衛生問題等はさておくとして、避難所に簡易便座と簡易テントを持っていったところで、どこで使うんだ、という問題があります。
 自宅で非常トイレを用意する場合には、簡易便座などは不要でしょう。ただ、非常用トイレを使用するとなった場合、まずビニル袋をセットし、薬剤を投入、用便後にビニル袋を処分する、という普段の用便よりも手間が増えます。
 職場である事業所においては、男性トイレでも小便器では非常用トイレは使えませんから、個室しか使えないということになります。1回あたりの用便時間の増加と、男性用便器数の減少といった要因から、トイレ待ちの行列ができるかもしれません。また、災害発生後の慌ただしい時期に、トイレの行列で貴重な時間を浪費するというのも無駄の多い話です。そうした混雑を緩和するという意味で、事業所では、簡易便座と簡易テントの備えは有効かもしれません。

 

必要な物をリスト化してみましょう

 トイレ問題を解決するには、まだまだ多くの準備が必要です。ここでまずは必要と思われる資機材をリスト化してみましたので、それを眺めてみましょう。

□ 基本セット(人数×5~7セット×3~5日分)(自宅/事業所)
□ トイレットペーパー(これは普段からストックを切らさないようにしておけば流用できます)
□ 簡易便座・簡易テント
□ ランタン
□ 非常用トイレの使い方ポスター
□ 養生テープ
□ ブルーシート
□ ゴミ袋(大容量)
□ トイレワイパー、使い捨てゴム手袋等清掃用具

 まずはランタンです。筆者はマンション住まいですが、トイレには窓がありません。災害の影響で停電になれば、トイレは一日中暗室となります。戸建て住宅や、オフィスビルのトイレであれば窓はあるかもしれませんが、それでも夜間には暗くなるのは間違いありません。懐中電灯片手に用便を済ませ、非常トイレの処理をするのは難儀な話ですし、用便の度にヘッドライトをつけるというのもなかなかに落ち着かないものです。照明の確保は、トイレ問題の重要なポイントとなります。

 そして、使い方のポスターですが、これは多めに用意しておいて良いでしょう。トイレ内の掲示だけでなく、入り口付近に掲示しておけば、順番待ちの間に段取りを確認できて、用便の時間が長くなる問題が少しでも解消される可能性があります。
 養生テープは、災害時に限らず何かと役に立つものですが、トイレ問題でも活躍します。まず、事業所のトイレの場合、男子トイレの小便器を封印するのに利用できます。また、トイレの洗浄レバーも封印しておくとよいでしょう。ビルの場合、仮に水道と電気が生きていて、水が使える状態であっても、下水の垂直配管が破損している可能性があるために、水洗便所が使用できないケースも考えられます。配管が破損している状態で水を流してしまえば、施設内のダクトスペースなどで漏水が発生し、余計な水損の元になることがあります。とはいえ、クセというのは恐ろしいもので、ついいつもの習いで洗浄レバーを操作してしまう可能性が無いとは言い切れません。余計な被害を生じさせないためにも、洗浄レバーも養生テープで封印しておくとよいでしょう。
 ブルーシートは、非常トイレのゴミの集積場所にはぜひ敷いておきたいですね。万が一、使用済みの非常トイレの袋が破損して中身が漏れ出たりしたら、カーペットは言うまでもなく、タイルなどでも嫌なシミが残ってしまうかもしれません。同様に、簡易便座・簡易テントを設営する場合にも清掃せずとも処分するだけで現状復旧できるブルーシートは大活躍します。
 災害時には様々なインフラが被害を受ける可能性がありますが、ゴミ収集というのも日々の生活には欠かせない社会インフラです。年末年始を思い浮かべてみてください。数日のことなのに、ゴミ収集が年末年始のお休みに入るだけで、ゴミ袋が大量に溜まりませんか。そこに非常用トイレのゴミが加わるわけですから、トイレ問題用の大容量ゴミ袋は欠かせません。
 そして、男性の小用も便座に腰かけるなどして、尿の飛散を防いだとしても、汚れや臭いの問題はついてまわります。生活用水も不足する可能性のある災害時ですから、水のいらない清掃用具の準備もしておくべきでしょう。ただし、清掃用具とトイレットペーパーについては、日常的にも使用するものですから、常にストックに意識して、調達をしていれば、特段の備蓄は必要ないかもしれません。

 

防災資機材の基本は使ってみること

 これまでもこのコラムで何度もお話ししてきたことですので、読者の皆さんはすっかり把握されていることと思いますが、防災資機材の基本は、まずは使ってみる事です。非常用トイレも、備蓄するだけでなく、ぜひ使ってみてください。次に、非常用トイレを使ってみる際の要点をいくつかご紹介しましょう。
 まず、便器にかけるビニル袋ですが、便器ではなく、便座の上から被せるのが基本ですが、使用するビニル袋とは別にベースとしてビニル袋をかぶせておきましょう。こうすることで、非常トイレを使った後の始末が楽になります。用便をしていないとはいえ、便器の内側に触れたビニル袋を触るのは誰だって嫌なものでしょう?また、非常用トイレの始末に万が一失敗しても、ベースのビニル袋ごと交換することで、後処理を簡単に済ませることができます。
 そして、非常用トイレを使う際に最も重要な作業ですが、ビニル袋の口をしっかりと縛る際に、きちんと中の空気を抜いて縛るようにしてください。前述したとおり、被災時にはゴミ収集も停止します。練習用だからといって何気なくビニル袋の口を縛る習慣をつけていると、実際の災害時には、ビニル袋内の空気のせいで、あっという間にゴミ袋が山のようになってしまいます。なるべくゴミはコンパクトにする工夫が必要です。仮に自宅で、家族のものとはいえ、一度縛った使用済み非常用トイレのビニル袋の口を開いて空気を抜くなんていう作業は誰もやりたくはないはずです。

 もう既に非常用トイレを備蓄している、そのうえ、勿論既に使ってみたことがある、という読者もいらっしゃるかと思います。今一度その時のトライの様子を思い出しつつ、灯りを付けないトイレでランタンの明かりを頼りに、用便を済ませ、しっかり空気を抜きつつ非常用トイレを処分するという点に留意しつつトライしてみてください。

 

避難所のトイレ問題

 さて、非常用トイレを使うまでもなく、自宅や事業所が被災し、避難所への避難を決断したとしましょう。避難所にはトイレが用意されていますから、非常トイレをわざわざ持っていく必要はありません。一方で避難所には避難所なりのトイレ問題があります。
 避難所生活が長引くにつれて、トイレ環境は悪くなる場合があります。臭気はいかんとしがたいとしても、便座の清潔感は気になるところです。少しでも状況を改善するためには、アルコールタイプのウェットティッシュは用意しておいても良いでしょう。ただし、ウェットティッシュは排泄物と一緒に流すと下水管のつまりを引き起こしますので、ゴミ箱に処分してください。

 更に注意が必要なのは、残念ながら避難所では性犯罪が発生リスクもあります。用便に立つときは複数人で一緒に、また、周囲に人が少なくなる夜間などのトイレ利用は避けるべきです。ただ、どうしても尿意をもよおしてしまうこともありえるでしょう。そうした非常事態に備えて、特に女性の方は、成人用紙おむつを非常用持出袋に幾つかいれておくのも方法の1つです。処分用の黒いビニル袋の用意も忘れずに。
 本コラム第4話でご案内した通り、私たちが生きていくためには水分摂取は食糧摂取よりも重要です。過去の大災害では、用便に立つのがおっくうになった高齢者が、尿を減らせないかと水分摂取を我慢して脱水症におちいるといった事態も発生しています。水分摂取を敬遠して、身体の危険を招き寄せてしまうことのないためにも、トイレの備えはしっかりと取り組んでおきたいものです。

 

 

 

国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員     
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員 
佐伯 潤 

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