26 火事ほど恐ろしいものはない

2023年 07月15日

地震、雷、火事、おやじ

 江戸っ子の怖いものと言えば、地震、雷、火事、おやじですが、現代の災害においては、地震より恐ろしいのが火事です。火事は、あらゆる災害の二次災害として発生すると言って過言ではないでしょう。例えば2019年に台風15号の猛威によって大きな被害が生じた千葉県では、民家で火災が発生したほか、工務店の倉庫が全焼する火災が発生しました。交通網が麻痺するような大災害で火災が発生すれば、消防隊の到着も遅れ、延焼によって大規模な火災へと発展するおそれもあります。しかし、この二次災害としての火災は、私たちの努力次第ではかなりの被害の低減が図れるのもまた、特徴であると言えます。

 たとえば、国の中央防災会議が試算した、首都直下地震の被害想定では、最悪のケースで、南関東の1都3県だけでも、23,000人もの死者が出ると想定されています。しかし、そのうち16,000人、約7割が地震によって発生した火災が原因とされています。世界トップクラスの建築技術を誇る日本ですから、新築の建物は勿論のこと、耐震化、免震化によって、建物倒壊による犠牲者は、2割程度と試算されています。いかに災害における火事が恐ろしいかを数字が如実に物語っていると言えます。
 災害時に発生する火災の多くは電気火災であると言われています。災害につきものの停電。この停電が復旧した際に、発生しやすいのが電気火災です。原因は様々で、停電によって強制的に停止した暖房器具などが通電によって知らぬ間に作動し過熱によって出火する場合があります。あるいは、倒れたり移動したりした家具によって電源コードがショートして、そこから出火することもあります。豪雨によって屋根に被害を受けた場合には、思わぬ箇所で雨水が漏ることによって漏電がおきます。ここでいう災害時の電気火災とは少し趣が違いますが、ドローンに多用されているリチウムポリマー電池も、衝撃による不具合や、荷重電、過熱によって発火や爆発が起きることは今更言うまでもないでしょう。地震の揺れによって落下するような場所には保管しないなど、ドローンのバッテリーにも、防災は必要ですね。
 さて、現代の生活は電気なしには成り立ちません。皆さんの自宅やオフィスで、コンセントタップのない部屋はないことでしょう。すなわち、電気火災は建物の中のどこででも発生する危険があると言えます。なかなかに怖いですよね。
 ただし、電気火災は、電気が通らない限り発生することはありません。災害時においては、停電の後が要注意だと言いましたが、避難所に避難している留守の間に停電が復旧し、知らぬ間に電気火災が起きていた、なんていう事態はまさに泣きっ面に蜂です。

 

必須の防災、ブレーカーの取扱い

 皆さんのご家庭では、感震ブレーカーは設置済みでしょうか。これは、地震の揺れを感知したら、自動的にブレーカーを落として電気を遮断する装置です。これによって、一旦通電が遮断されますから、電気火災のリスクを一次的にせよ、ゼロにすることができます。
 ちなみに、冒頭にご紹介した、国の首都直下地震の被害想定ですが、これについては、防災の観点からもう一つの試算が付いています。地震火災による死者数想定は約16,000人と推定されていますが、感震ブレーカーの設置など、電気関係の出火の防止が充実することによって、死者数は約9,000人、6割弱まで減少させることができるであろうというのです。さらに、消火器や屋内消火栓を活用した、初期消火の成功率が向上した場合、約800人にまで被害を縮減できる可能性があるそうです。

 

 

 初期消火活動は、勿論訓練をしておくことが重要ですが、実際の火事を目の前にしたらそれは恐ろしいものですし、無理だと思ったら、安全を優先して避難していただきたいところですが、しかし、感震ブレーカーなどを設置するだけで、被害を減少させることができるのであれば、取り組んでおくべきではないでしょうか。
 ちなみに、感震ブレーカーには大きくわけて3つのタイプがあります。分電盤タイプ、コンセントタイプ、簡易タイプの3種類です。コンセントタイプは、コンセントタップに個別に取り付けるタイプですので、事業所などで地震が来たからといって全ての電気を遮断するわけにはいかないけど、といった状況で、暖房器具や温熱器具など、特に誤作動によって火災の原因となりそうな物品にしぼって使用すると良いかもしれません。
 分電盤タイプと簡易タイプは両方ともブレーカーに設置するもので、家屋内の電気を一斉に遮断することができます。分電盤タイプは数万円、簡易タイプは数千円と値段に違いがあります。簡易タイプは、おもりのついた紐の末端をブレーカーのスイッチにつけておく構造です。揺れを感知すると、おもりが台座から落下し、その連動でブレーカーが落ちるという、その名の通り、簡易な構造です。
 簡易タイプの弱点は、きわめてシンプルな物理的構造で電気を遮断するため、地震と同時に電気がシャットダウンされてしまう点です。昼に起きた地震ならまだしも、夜間の地震の場合、いきなり家の中が真っ暗になってしまうというリスクがあります。暗闇の中を懐中電灯などの照明器具を探そうとして割れたガラスを踏んでしまったり、タンスの角に小指をぶつけてしまったりする危険を伴います。
 一方で分電盤タイプは地震が発生すると、アラームなどによって発動を知らせ、その3分後(機種によって異なります、また、設定で時間を変更できるものもあります)にシャットダウンさせます。電気供給が止まるまでに時間の猶予があるので、照明を手にすることができる可能性があります。ただし、地震によっては揺れが長く続くことも考えられ、床にへばりついて揺れがおさまるのを待っている間にシャットダウンされてしまうことも考えられますので、照明器具は分かりやすい場所、手の届きやすい場所に置いておくということも大切ですね。
 いずれのタイプを選ぶにしても、感震ブレーカーは地震火災を防ぐ決め手の1つであることは間違いありません。設置がまだ、という方は、ぜひ備えていただきたいものです。

 

ブレーカー復旧のコツ

 さて、揺れが収まって建物の安全も確認できた、あるいは、停電が解消され電気が復旧した、という段階になっても、いきなり完全復旧!というのは危険です。前述の通り、どこかの電源ケーブルがショートしているかもしれませんし、建物のどこかで漏電が発生しているかもしれません。
 ブレーカーの左側のメインとなるスイッチを入れる前に、右側に沢山ついている安全ブレーカーという小さいスイッチを一旦全部オフにしましょう。それから、メインのスイッチを入れます。この安全ブレーカーは建物内の配線ごとに割り当てがされているので、一部分ずつ通電を再開することができます。したがって、1つずつ時間をあけて安全ブレーカーを入れていき、それぞれの割り当てのエリアで問題が無いかを確認しながら復旧をしていくと安全です。
 左側のメインのスイッチは、サービスブレーカーと漏電ブレーカーというスイッチが2つついているものと、最近のブレーカーだと、漏電ブレーカーだけ、というタイプがあります。簡易タイプの感震ブレーカーを取り付ける場所も、分電盤タイプで操作をするのも、漏電ブレーカーになります。この漏電ブレーカーはその名の通り、建物内で漏電を検知すると電気を遮断する仕組みになっています。よって、今説明したとおり、安全ブレーカーを1つずつ復旧させていき、その途中で漏電ブレーカーが落ちることがあれば、直近に復旧させた安全ブレーカーが接続されている配線上のどこかで漏電が起きているということになります。その安全ブレーカーだけを回避して、他を復旧させれば、電気屋さんが対応してくれるまで、暗闇の中で生活する不便からは安全に開放されます。
 例えば、庭先の照明用の電源が豪雨によってショートしたために、漏電ブレーカーが落ちたとします。漏電ブレーカーの遮断ですから、一旦は家中の灯りが消えてしまいます。しかし、前述の通り、一旦分岐ブレーカーを全てオフにして、1つずつ復旧していけば、漏電が生じている箇所を見つけることができます。よって、漏電が発生している箇所の分岐ブレーカーだけをオフにしておけば、その他の場所の電気を復旧させることができるわけです。

 もう一度おさらいです。ブレーカーの復旧は、安全ブレーカーを全てオフにしてから、漏電ブレーカー(スイッチ)を入れ、1つずつ確認しながら安全ブレーカーを復旧させていく。この段取りだけで、電気火災による被害の拡大はかなり防げるでしょう。
 なお、電子レンジや洗濯機などのように電気機器の内部で漏電・ショートを起こすリスクのある物品にはアースと呼ばれる緑色の線が付いています。(3つ本の突起が出ているプラグの電気機器の場合は、3本目の突起がアースになっています)こうした電気機器を使用する場合には、コンセントタップに併設されていたり、付近に別に設定されているアース口に必ずアースを接続させてください。アースが接続されていないと、漏電による電気が機器内に充電されて(溜まって)しまい、漏電ブレーカーが反応しないばかりか、うっかり触れることによって感電するおそれもあります。アースの接続を確認しましょう。

 

グラッと来たら火の始末、はもう古い

 消防白書によるとわが国で発生する火事の一番の出火原因は、キッチンのコンロです。皆さんも、キッチンで一番火事が起きやすいというのは、なんとなくご存知のところかもしれません。筆者も含め、昭和世代などは、小さいころに「グラッと来たら火の始末」という標語を何度となく見かけたり、聞いたりして、すっかり頭に刷り込まれている方が多いことと思います。
 でも、その標語、今はもう古いんです。現代は、熱いフライパンや油があるし、調理台の包丁が落ちてくるかもしれない危険なキッチンからは、「すぐに離れて身の安全」が正解なのです。コンロの火は放っておいて良いのでしょうか。
 電気におけるブレーカーのように、ガスの場合は、マイコンメーター(ガスメーター)がガスの供給を制御しています。そして、このマイコンメーターは震度5程度の地震を検知すると、自動的にガスの供給を停止してくれるのです。人が慌てて火を消そうとする前に、コンロの火はもう消えていることでしょう。よって、料理中に地震が来たら、火の始末よりも自分の安全を守る行動をとっていただきたいものです。そして、ガスの安全性が高い以上、やはり私たちの宿敵は電気火災ということになります。
 ところで、電気の復旧については、ブレーカーの操作法をご案内しましたが、ガスの復帰についてはマイコンメーターの操作が必要です。マイコンメーターにはキャップでカバーされた復帰ボタンがあります(機種によって復帰ボタンの場所は異なります)。この復帰ボタンを押すことによって、ガスの供給は復帰します。      ただし、重要なことは、復帰ボタンを押したら、すぐにガスを使うのではなく3分ほど待ちましょう。マイコンメーターにはガス漏れをチェックする機能もあります。ガスの供給が復帰すると、マイコンメーターは建物内のガス管の圧力が一定するかをチェックします。この圧力が一定しない場合、マイコンメーターはガス漏れと判断して、ガスの供給を遮断します。

 復帰ボタンを押してすぐにコンロに火をつけると、燃焼によってガスが消費されはじめます。すると、マイコンメーターはこれをガス漏れと誤認して遮断してしまうのです。1分でも1秒でも早くお湯を沸かして、カップラーメンを食べたい気持ちもわかりますが、ここは一旦3分待つことを、忘れずに。

 今回は、災害が起きた後の恐ろしい二次災害、火事について主原因である電気火災と、一方で案外と安全なガスの両面からご案内してまいりました。電気もガスも私たちの暮らしには欠かせないものです。建物が無事であったら、すぐにでも電気を復旧させ、ガスを復帰させたいところですが、安全のための最後のひと手間として、復旧、復帰の方法もあわせてご紹介しました。しかし、もう一つ意外なところに落とし穴があります。筆者が防災教育でこういったお話しをさせて頂いていると、わりと頻繁に頂く質問があります。
「ブレーカー/マイコンメーターってどこにあるんですか?」
 ブレーカーはマンションなら玄関付近、戸建てなら洗面所や玄関のクローゼットの中にある場合が一般的です。マイコンメーターは、住宅なら建物内のガス給湯器がある付近の建物の外側にあります。皆さんはご自宅のブレーカー、マイコンメーターの位置、把握されていますか?

 

 

 

国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員     
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員 
佐伯 潤 

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