42 触るなキケン、素人が手出しできない負傷

2024年 03月15日

けが人には動かして良い場合と悪い場合がある

 災害が発生すると、負傷者が発生します。困っている人がいれば、援けられるものなら助けてあげたいと思うのが人情というものですが、救急医療の経験を積んでいる医療従事者や、場数を踏んだ救急隊員でもない限り、あらゆる負傷に対応をするというのはとても無理な相談です。どれくらい無理かと言えば、毎日のようにドローンを飛ばしている人に、航空機のベテランと神輿に祭り上げたついでに、旅客機のコックピットに座らされ、さあ飛ばしてくれと頼みこむのと同じくらい無理な話です。
 ただ、厄介なのは、救助の場合には、相手が人であることには変わりがないので、ドローンのプロポと、飛行機のコックピットのような見た目の明確な違いが無い点です。目の前で助けを求める人がいる以上、自分の知っている限りの知識をかき集めて助けてしまおうとしてしまう場合があります。そうした無茶は、要救助者にとって命取りになるばかりではなく、対応の不手際によって要救助者にとりかえしのつかない被害が及んでしまった場合、救助した側の心にも深い傷が残ってしまいます。災害時には肉体的なケガ以外にも、様々な原因で心に傷を負う場合があることは、これまでのコラムでご案内さしあげてきた通りです。
 今回と次回のコラムでは、この要救助者の救助について考えていきます。今回は、素人である私たちが助けてはいけない要救助者についてご案内してまいりましょう。

 

絶対安静のシチュエーション

 しっかりとした教育訓練を受けていなければ、医療従事者や救急隊員でも苦戦する状況に、脊椎損傷と骨盤骨折があります。

 脊椎とは、首からお尻まで続くいわゆる背骨のことであり、脊椎の中には、脊髄という脳から続く中枢神経が通っています。この脊椎が衝突、転倒、落下などの外部からの圧力によってダメージを受けた状態が、脊椎損傷です。脊椎損傷が他の骨折と大きく異なるのは、脊椎の損傷が、脊髄にもダメージを与えてしまうおそれがある点です。この中枢神経が傷められると、手足の運動に支障をきたし、半身不随などの後遺症が残る場合がありますし、呼吸機能に悪影響が及び呼吸が停止してしまうおそれもあります。
 一方で、骨盤は腰回りの骨を指します。骨盤は上半身と下半身を接続するカナメの骨ですが、大腸、小腸や排泄器、生殖器を納めるために、底の抜けたお椀のような構造をしています。骨盤骨折が厄介なのは、骨盤の内側には消化器やそのほかの内蔵、さらには脚部へと血液を運ぶ太い動脈が存在するためです。折れた骨盤の破片がそうした内蔵やダメージを傷つけると、ひどい内出血をひきおこしたり、大腸内の便が体内に漏れ出して感染症をおこしたりする危険性があります。
 脊椎損傷や骨盤骨折の対応に際しては、これ以上状態が悪化しないように、ネックカラーや骨盤ギプスと呼ばれる資材を用いつつ、要救助者の身体を固定してから搬送する必要があります。勿論そうした資材の取り付けや、搬送のために担架に移す際にも、不用意に要救助者の身体をねじったりずらしたりしないように細心の注意を払って対応をする必要があります。仮に対応に関する知識があったとしても、適切な訓練を受けていなければ、おいそれと対応できる事態ではありません。海水浴場などの安全を守るライフセーバーの教科書でも、脊椎損傷のうたがいがある場合には、対応経験のある救急隊に対処を委ねることが強く推奨されているほどです。
 間違った対処をしてしまわないためには、要救助者の十分な観察が必要です。意識がある場合には、受傷機転(ケガをした理由・原因)をヒアリングすることが大切ですし、手足に痺れがあると訴える場合には、脊椎損傷の可能性を念頭におく必要があります。相手に意識がなかったとしても、周辺の状況をよく観察してください。免震構造の高層ビルなどでは、建物に被害が出なくても、地震が発生した際には建物が地上よりも大きく揺れる場合があります。この際に、キャスターロックをかけていない複合機(高性能コピー機)などは慣性の法則に忠実に大きく移動します。仮に地震が発生した瞬間に複合機が3メートル移動してあなたに向かってきたとします。これは100㎏近い弾力性のない物体が、速足で体当たりをしてきた衝撃となります。骨盤などはひとたまりもありません。

 余談となりますが、皆さんのオフィスでは複合機や冷蔵庫など重量のある電気製品にしっかりとストッパーがかけてあるでしょうか。キャビネットの固定だけで安心していたりませんか。

 

突然死につながる挫滅症候群

 他にも動かしてはいけない状況があります。挫滅症候群(ざめつしょうこうぐん)あるいはクラッシュシンドロームと呼ばれる状態です。これは四肢の一部が重量物に挟まれることによって発生します。腕や脚が重量物に挟まれると、挟まれた箇所がうっ血し、壊死がおきます。筋肉が損傷することで、ミオグロビンやカリウムといった物質が放出され血液内の濃度が高まります。腕や脚が挟まれた要救助者であって、意識がある場合には、早く助けて欲しいと求めてくるでしょうが、その求めに応じてよってたかって障害物を取り除き助け出してしまった場合に挫滅症候群が引き起こされます。このコラムは医療ドラマではありませんので、細かな医学的な解説は略として、早い話が、うっ血状態が解除されることによって、毒気の有る血液が体内を回って、死んでしまう場合があるという話です。
 この挫滅症候群による死を防ぐには、救出から輸液、人工透析などの対処までの時間を短くするべきであるとされています。挟まれが生じてから、挫滅症候群の原因に至るまでの時間は明確な基準がありません。1時間以上と言われる場合もありますが、阪神淡路大震災の折には、30分程度の挟まれで挫滅症候群となったケースもあります。

 止血帯によって挟まれた箇所よりも心臓に近い方をしっかりと止血して救助するという方法もあるようですが、止血効果が得られるほどに止血帯を締め上げるというのは、これまた恐ろしく痛いのです。痛みに耐えかねて周辺の者が少し目を離したすきに、要救助者自身が止血帯を解除してしまう可能性も考えられます。
 いずれにせよ、四肢が挟まれた状態の要救助者が発見された場合、まずは挫滅症候群の可能性を考慮して、対応を検討する必要があるわけです。とりあえずの応急手当としては、最低でも1リットルの水をゆっくりと飲ませることが有効であるとされています。

 

困った事態が起きないのが一番

 今回は、頸椎損傷、骨盤骨折、挫滅症候群といった、素人が無暗に救助してはいけない事態を説明してきました。すでにご案内した通り、これらの状態の要救助者については、救急隊などの専門家による救出を待つべきであると言えるでしょう。
要救助者によっては意識がある場合がありますので、その際には、周辺の安全が確認できるのであれば、傍について要救助者を励ます声がけをし続けてあげるのも1つの手と言えます。
 ただ、いつ発生するか分からない地震のような災害に備えて、普段からの備えが欠かせないのは言うまでもありません。前述の通り、複合機や大型のシュレッダー、給湯室の冷蔵庫など、一般オフィスの中にも多くの危険が存在します。残念ながら、筆者がこれまで観察してきた中でも、ファイルキャビネットなどの大型什器は固定がしっかりとなされていたとしても、複合機のキャスターにストッパーが欠けられておらず、軽く押すだけで簡単に動いてしまうものも少なくありませんでした。また、収納可能なプロジェクションスクリーンや脚立などの長物がぞんざいに壁に立てかけられている例も見かけます。これらは倒れずらいキャビネットの隙間にしっかりと収納するとか、転倒防止のロープをかけるといった、対策を講じておくべきでしょう。

 あるいは、第40話でご案内した避難階段での避難の基本として、階段の昇り降りに際しては、手摺を使用するといった普段からの転倒防止も重要です。体重の約1割の重さを占める頭部ですから、転倒した際の直接的な衝撃はヘルメットでしのぐことができたとしても、その重さと勢いから、首の骨を損傷してしまう危険性は否めません。そう、災害時の転倒とは、膝をすりむく程度ではすまされない、大きな危険の入り口でもあるのです。
 避難訓練や防災訓練の折に、こうした無理な救助が重症化リスクになる事例をしっかりと共有し、そうはならないようにするための予防を講じるのは無論のこと、万が一、自分や仲間がこうした負傷をしてしまった時に、無知識から生死の危険に立つようなうっかりミスが起きないよう、対策はしっかりと講じておきたいものです。

 

 

 


国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員     
公益社団法人 東京都理学療法士協会 スポーツ局 外部委員 
佐伯 潤 

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